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目次
書籍情報
あいまいさに耐える
佐藤卓己
上智大学文学部新聞学科教授、京都大学名誉教授、専攻はメディア文化学
岩波書店
- はじめに――輿論主義のために
- 第一章 ファスト政治
- 政権交代選挙前、私はこう書いた(二〇〇九年七・八月)
- マニフェスト選挙の消費者感覚(二〇一〇年一月)
- ファスト政治と世論調査民主主義(二〇一〇年一〇月)
- 第二章 メディア流言
- 「想定外」の風土(二〇一一年五月)
- 危機予言とメディア・リテラシー(二〇一一年一〇月)
- 「災後」メディア文明論と「輿論2・0」(二〇一四年二月)
- 第三章 デモする社会
- 論壇はもう終わっている(二〇一四年二月)
- 「デモする社会」の論壇時評(二〇一二年八月)
- ファスト政治と「輿論2・0」(二〇一〇年六月)
- 第四章 情動社会
- 世論調査の「よろん」とは?(二〇一六年二月)
- もうパブリック・オピニオンはないのか(二〇一六年六月)
- 報道の自由度ランキング(二〇一六年一一月)
- 第五章 快適メディア
- 玉音から玉顔へ(二〇一七年一二月)
- 「変化減速」時代の快適メディア(二〇二〇年五月)
- 例外状況の感情報道(二〇二一年三月)
- 第六章 ネガティブ・リテラシー
- 戦争報道に「真実」は求めない(二〇二二年九月)
- AI時代に必要な耐性思考(二〇二二年三月)
- ネガティブ・リテラシーの効用(二〇二三年一一月)
- あとがき
書籍紹介
SNS上の情報、ニュースメディア、政府の声明、そして個々の意見表明。これらはしばしばあいまいであり、その真偽や意図を見極めることは容易ではありません。しかし、佐藤卓己氏の新刊「あいまいさに耐える ネガティブ・リテラシーのすすめ」(岩波書店)は、そんな情報社会における新たな生き方を示唆しています。
情報の曖昧さに対してどのように向き合うべきかを探求する一冊です。タイトルにある「ネガティブ・リテラシー」とは、否定的な情報や不確実性を受け入れる能力を指します。私たちはしばしば「確証バイアス」に陥り、自分に都合の良い情報だけを信じがちですが、この書籍ではその逆を提唱しています。
情報の向き合い方 概要
- ネガティブ・リテラシーについての深掘り
- 情報を信じるだけでなく、疑うことも必要だという視点は、情報過多の時代に非常に有益です。佐藤氏は、このリテラシーを身につけることで、自分たちがどのように情報を処理し、解釈するかについて新たな視野を提供します。
- 社会学的アプローチ
- メディアと社会の相互作用を詳細に分析し、情報の受け手としての私たちがどのように振る舞うべきかを示唆しています。
- 実例と理論のバランス
- 具体的な事例を通じて理論を説明する手法は、読者にとって非常に理解しやすいです。特に、最近の政治や災害情報の扱い方など、タイムリーな話題が多く含まれています。
情報の信頼性やその解釈について、私たちがどれだけ不確実性に耐えられるかが、民主主義社会の健全性に直結するという点にフォーカスしています。この視点は、特にフェイクニュースやデマが飛び交う現代では、非常に重要です。批判的思考を呼びかけるこの書籍は、教育者や学生、メディアに携わる人々だけでなく、一般の読者にとっても有益な一冊です。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
危機予言とメディア・リテラシー
東日本大震災の津波で流された陸前高田市の松の割木を御摩木に使用する計画が立てられ、伝統行事「五山送り火」が行われる予定でした。しかし、割木から微量の放射性セシウムが検出されたため、送り火の使用が見送られました。
放射能汚染は命に関わる問題ですが、微量のセシウムがどの程度有害なのかは放射線疫学者の間でも明確にはわかっていません。しかし、ソーシャルメディアやマスコミによってネガティブな情報が拡散する良いきっかけとなったのかもしれません。
流言は人間がコミュニケーションする上での一種のノイズであり、善悪にかかわらず発生します。その発生を防ぐことは不可能です。そこで、混乱を最小限にとどめるための情報システムの構築が求められます。これには、国家による情報公開の拡充と、メディアの信頼性向上することが必要です。
コミュニケーションの意識変化は微変
「家族と話をする」という行動が3%ほど減少しているようです。「テレビを見る」という行動も、86%から79%へと微減していますが、日本人のコミュニケーション意識に大きな変化は見られません。
「テレビっ子」世代と他の世代間の意識差も小さく、コミュニケーションに関する意識変化は縮小する傾向にあります。それにもかかわらず、メディア論者は「ネットが意識を変える」と主張しがちですが、正しくは「意識がネットを変える」のです。あまり変化が見られないメディア意識を前提に、ネットの活用法を探るべきです。
ネガティブ・リテラシー
歪んだステレオタイプを修正する公共的な情報システム構築に筆な専門家には、次の習慣が必要だとウォルター・リップマンは述べている
実際のところ、どんな分野であれわれわれが専門家になるということは、われわれが発見する要素の数をふやすことであり、それに加えて、あらかじめ期待していたものを無視する習慣をつけることである。
「無視する習慣」の大切さが強調させることに注目したいところです。情報リテラシーの向上ばかりに目を向けられていますが、情報が稀少だった時代の話ではないでしょうか。むしろ、情報過多の時代では、「読み過ぎず、不用意に書き込まない能力」であるネガティブ・リテラシーが必要だと感じています。