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目次
書籍情報
砂糖と人類_2000年全史
ウルベ・ボスマ
社会史国際研究所(IISH)の上級研究員
アステルダム自由大学教授
パリの社会科学高等研究院(EHESS)の客員教授
砂糖と国際労働力移動に詳しい。
河出書房
- はじめに
- 第1章 アジアの砂糖の世界
- インド_ここですべてが始まった……
- 中国の砂糖と貿易
- 東南アジアにおける中国の砂糖
- アジアの砂糖は海を渡る
- 第2章 西へ向かう砂糖
- 地中海の残光
- 医薬品からごちそうへ
- ヨーロッパの都市と産業における砂糖
- 第3章 戦争と奴隷制
- ヨーロッパの砂糖独占を狙うオランダ
- イギリスとフランス、それぞれの砂糖革命
- 奴隷たち
- 農園主たち
- 砂糖から得たヨーロッパの利益
- サン=ドマング、イギリス領インド、そして奴隷貿易の禁止
- 第4章 科学と蒸気
- 科学と熱帯農業
- 植物学
- 学術団体と経済団体
- 蒸気機関の登場
- 甜菜糖
- 第5章 国家と産業
- 真空釜
- サン=シモン主義と奴隷制廃止論
- 中間技術
- 工場、技術者、資本家
- プランテーションの資金調達
- 新しい砂糖資本主義と古い君主制
- 第6章 なくならない奴隷制度
- アメリオレーションと奴隷たちの抵抗
- アメリオレーションから奴隷制廃止へ
- インドの砂糖、工業生産の急成長と破綻
- 世界中で砂糖を探すイギリス
- 奴隷制は続く_キューバ、ブラジル、ルイジアナ
- 砂糖農園の年季奉公労働者
- ジャワの強制栽培システム(1830~1870)
- ジャワの農業のインボリューション
- 工業化と強制労働
- 第7章 危機と奇跡のサトウキビ
- 集約とカルテル化
- 植民地における砂糖ブルジョワジーの復活
- アジア向けのジャワ島産砂糖
- 世界に広がるサトウキビと病害
- 奇跡のサトウキビPOJ2878
- 第8章 世界の砂糖、国のアイデンティティ
- 砂糖と共和主義
- ルイジアナ_プランテーションの再建
- 文化的素養と白人性
- ラテンアメリカでしぶとく残る農民の砂糖
- インドの農民がつくる砂糖の進化
- 第9章 アメリカ砂糖王国
- トラスト
- ソルガムのブーム
- 甜菜糖
- トラスト、アメリカの金融界、そしてマヌエル・リオンダ
- カリブ海地域での征服
- 国内のサトウキビ・フロンティアになったフロリダ
- 第10章 強まる保護主義
- ブリュッセル条約(1902)
- 砂糖大手の衝突
- 関税の壁に隠れた砂糖
- イギリス帝国の砂糖政策
- 第11章 プロレタリアート
- アメリカとドイツの甜菜畑における人種差別
- ハワイとカリフォルニアの労働者による抵抗運動
- 共産主義と労働者の国際的連帯
- 開発経済学の誕生
- 第12章 脱植民地化の失敗
- 植民地主義を超えた砂糖_協同組合
- 英連邦砂糖協定の勝者と敗者
- 残された二つの砂糖帝国
- 高果糖コーンシロップとその影響
- 第13章 企業の砂糖
- サトウキビの刈り手たちの苦境
- 砂糖ブルジョワジーの終焉?
- くびきから放たれた巨大製糖企業
- 全体主義的資本主義、それとも緑の資本主義?
- 第14章 自然より甘い
- バンディング・ダイエットは、どうやって葬られたのか
- 食品規格と大量消費
- 肥満との戦い
- 砂糖摂取のガイドライン
- 企業の甘味料ビジネス
- おわりに
書籍紹介
この度、ウルベ・ボスマ氏による「砂糖と人類 2000年全史」(河出書房新社)が出版されました。砂糖という、我々にとって身近でありながらその歴史や影響を深く知る機会がない物について、2000年もの長きにわたる歴史を紐解く一冊です。
歴史の旅路
本書は、砂糖がどうやって医薬品や贅沢品から、現代の生活必需品へと変貌したかを詳述しています。砂糖の起源はインドに遡り、その後中東、ヨーロッパへと広がりを見せます。この過程で砂糖は単なる甘味料以上の存在となり、社会、経済、政治、そして健康に至るまで、我々の生活全てに影響を与えてきました。
多角的にみる歴史
砂糖が如何にして世界を動かし、その動きが如何にして人類の生活を形作ったかを詳細に記しています。例えば、砂糖が奴隷制の拡大にどのように関わったのか、工業革命とどう結びついたのか、さらには現代の健康問題にどのように関連しているのかなど、多角的な視点から考察がなされています。
今の食生活と砂糖の文化
私たちは砂糖がただ甘いものではなく、歴史や文化、政治、経済を理解するキーワードであることを再認識します。砂糖の普及が新大陸の発見や植民地主義、さらには科学革命や工業化にどう寄与したかを知ることで、我々の歴史観は一層深まります。また、現在の砂糖消費が健康問題を引き起こす裏側を知ることで、今日の食文化に対する見方も変わるでしょう。
砂糖が人類を魅了しつつも、両刃の剣である側面を強調しています。砂糖は人々を幸せにする一方で、その生産や消費は環境破壊や健康問題を引き起こす。この矛盾を理解することで、我々は現代の食生活や食品産業に対する批判的視点を持つよう促されています。
深い洞察と広範な研究に基づくこの作品は、読者に砂糖という甘い物質が、どのようにして人類を甘くも苦くもしたかを理解させてくれます。この本は、歴史好き、食文化に興味がある人、そして現代の食生活を見直したい人に強く推薦します。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
医療品からごちそうへ
白い結晶糖の歴史は、宮廷から始まりました。一般大衆の手に届くようになった当初は、薬として使われることが多かったのです。
蜂蜜や砂糖は人体に容易に吸収されるため、砂糖水は慢性の下痢に苦しむ患者の生命維持に役立てられていました。12世紀では、腸に問題がある人を生かしておく薬として砂糖が使われていたのです。
17世紀手前になると、バラ水、砂糖水、レモネードなどと食文化が発展していき、砂糖水が富裕層だけが楽しむものではなくなりました。シャーベットが氷とまぜてソルベとなり、甘いごちそうが王族の外交などの場に欠かせないデザートだったようです。また、砂糖細工は16世紀から登場しています。1565年にパルマ公アレッサンドロ・ファルネーゼとポルトガル王女マリアが結婚したときは、壮麗な粗糖細工が披露されました。砂糖に関する貿易が整頓されていくと、徐々に一般に砂糖が広まりました。結婚式、プロポーズ、裕福な農民の洗礼式などで、お菓子が振る舞われるようになっていったのです。
お菓子やペストリーの製造技術は、スペイン人やポルトガル人によってそれぞれの植民地へ伝えられました。甘いもの好きのイベリア半島の女子修道院は、ラテンアメリカやフィリピン、そして南アジアの植民地全土に菓子作りの技術を広めています。スペイン領アメリカの都市では17世紀から、菓子やケーキが露店で売られるようになり、一般的な商品になったのです。
新しい砂糖資本主義
砂糖の世界では、王侯貴族が常に主役でした。その価値の高さゆえに、権力者が貴重な天然資源を入手する手段を規制していました。ヨーロッパの列強国間で繰り返された戦争では、砂糖の植民地を獲得することが最大の戦果となりました。しかし、これが19世紀半ばになると状況が変わります。
官僚機構や資本主義が定着し始めると、国は工業化を推進します。帝国政府と植民地政府が工業化に向けて動くと、砂糖の価格はさらに下がり、砂糖生産の競争力が失われてしまいました。砂糖における自由競争はここで一度終わっています。
19世紀半ばには、実業家、裕福な商人、大地主たちが、複数の農園からサトウキビを集荷して製糖する砂糖セントラールを建設しました。そこで働く労働者のほとんどが、強制的に働かされる人々でした。
ラテンアメリカでしぶとく残る農民の砂糖
1940年代、メキシコ文化がアメリカからの独立の象徴としてピロンジージョ(メキシコの粗糖)を称えることでアイデンティティを示していました。
メキシコの大統領を務めたラサロ・カルデナスも、コーヒーには粗糖を入れて飲んでいました。アメリカで売られている工業化された甜菜糖の3倍の値段がついていたにもかかわらず、メキシコ人移民はピロンジージョを好んでいました。
しかし、政府はこの農民がつくる砂糖を嫌っていました。課税しにくいうえに、製糖時にショ糖が失われるため、効率が悪かったからです。値段が高くても購入する人がいましたが、世界の工場化が進むにつれて砂糖は大規模な製糖所(セントラール)が主流となりました。農村部から都市部へ人の移動が進んだことで、農民の砂糖づくりは基盤が揺らぎ、次第に古い製糖所は姿を消しました。
20世紀に入っても、ラテンアメリカでは推定5万のトラピチェ型工場が稼働しています。今日では、ラテンアメリカで農民がつくる砂糖の総生産量は200万トンと推定されています。