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目次
書籍情報
透明マントのつくり方 究極の”不可視”の物理学
グレゴリー・J・グバー
ノースカロライナ大学ジャーロット校物理学・光科学教授。
文藝春秋
- 第1章 私が予想を外したこと
- 科学の進歩の予想は難しい。2006年、「透明マント」こと不可視化クロークの論文が話題になった。その実現時期を尋ねられた私の答えは……
- 第2章 「不可視」とはどういう意味か?
- 不可視とは思わせぶりな言葉だが、漠然としている。実際に研究されているが本書の目標とは違う不可視化技術を含め、まずその定義を確認しよう
- 第3章 科学とフィクションの出会い
- 「姿を消す」物語は古来より人魅了した。近代になり始めて不可視を科学的に追及したのもSFだった。その着想の源は、かの偉人ニュートンだ
- 第4章 見えざる光線、見えざる怪物
- 19世紀始め、天文学をきっかけに目に見えない二つの光が発見された。赤外線と紫外線である。ならば「赤外色」の物体もありうるのではないか
- 第5章 波動光学の新時代
- 18世紀初めにニュートンが光は粒子だと言ってから100年。ヤングが光と音の類似から光の波動説を提唱し、波の性質の重要な法則を発見する
- 第6章 振動する光
- ある種の結晶に光を通すと二重に見える。だがそうならない光もある。ヤングはこの「偏光」の正体も見抜いた。これが未来の不可視化につながる
- 第7章 磁石と電流と光
- 光が波なら、波打っているのは何なのか?電気と磁気に見せられたファラデー、電磁波は高速で伝わると予測したマクスウェルが光の正体に迫る
- 第8章 透明人間生まれる
- 19世紀末、驚きの発見がなされた。どんな物質も通貨するX線だ。これに着想を得たH・G・ウェルズは史上もっとも有名なSF小説を生み出す
- 第9章 原子の中には何があるのか
- 19世紀から20世紀初頭の大テーマ、原子構造の解明。この結論が出る過程の難題「無放射問題」が、意外にも不可視化の科学の第一歩になった
- 第10章 量子を疑う最後の大物
- ブランクとアインシュタインの理論から量子論が始まった。だが波動と粒子の二重性を疑うショットは、古い波動説だけを駆使して無放射問題に挑む
- 第11章 物体の内部を可視化する
- X線はCTスキャン技術にまで進化した。この画像撮影法が本当に内部を可視化するのかという疑問が、なんとあの無放射問題の数学的論争を呼ぶ
- 第12章 わが師ウルフが狩っていたもの
- 光の物理と統計を組み合わせ、コヒーレンス理論を確立したエミール・ウルフ。無放射源を追究した彼との出会いが、私を不可視化の研究へ導いた
- 第13章 自然界に存在しない物質
- レーダーで探知されない物質の研究から、新たな光学遠く性の物質「メタマテリアル」が着想される。これが実現すれば不可視化マントも可能では?
- 第14章 透明マント現る
- 空間をゆがませて光を迂回させる物質の理論が本当に考案される。私は疑ったが、2006年、不可視化クロークの論文からわずか半年で試作品が
- 第15章 奇妙な仕掛け
- 不可視化クロークにはまだ様々な難点があり、本当に透明マントができたわけではない。しかしさらに奇妙なデバイスの理論も次々考案されている
- 第16章 隠すだけじゃない
- クロークとは波を迂回させる技術だ。ならば、不可視化だけでなく、海の巨大波や地震波、熱の流れから防護するメタマテリアルもありうるのでは?
- 付録A あなたにも不可視化デバイスが作れる!
- 付録B 不可視性をテーマにした小説のリスト
書籍紹介
この本は「不可視」というテーマを軸にしているのですが、単なるファンタジーではなく、科学的な視点から「不可視化」の可能性を論じています。歴史的に見ても、人々は常に「見えないもの」や「姿を消すこと」に強い興味を抱いてきました。『透明人間』や『ハリー・ポッター』の透明マント、さらには『ドラえもん』の道具など、フィクションで描かれてきた不可視化のテクノロジーは、我々の想像力を刺激し続けています。
現在でも真剣に研究されている
「光を曲げて見えなくする」技術は、現在では真剣に研究されており、実際に試作品も存在しているのです。グレゴリー・J・グバーは、光学や電磁波、量子力学といった科学の進歩を丁寧に解説しながら、これらの技術がどのように「透明化」に貢献するかを説明しています。特に注目すべきは、彼がSF愛好家でもあり、その視点から科学の歴史や未来予想を描くところです。SFは単なるエンターテイメントではなく、科学の発展を予見することもあるという視点は、読者にとって新鮮な驚きを提供します。
本書を楽しむポイント
難解な物理理論を平易に伝えようとする姿勢にあります。著者は、物理の偉人たちや知られざる研究者たちの話を交えながら、読者を科学のワンダーランドに誘います。巻末には、家庭で試せる”透明化デバイス”の作り方や、SF小説のリストまで付録として載せており、これがまた楽しいポイントです。
ロマンを求める方へ
物理好き、SFファン、そして単に新しいもの好きな人々にとって必読の書です。科学がどのように我々の日常を超えて、夢や想像力を具現化しようとしているのか、そのプロセスに触れることで、科学への興味が一層深まることでしょう。また、科学がどのように社会や文化と結びつき、影響し合ってきたかを理解する助けにもなります。
科学の世界が実はとてもロマンチックで、我々の想像力を超える現実がそこにあることを実感できるはずです。科学書という枠を超え、読者に新たな視点を提供してくれます。透明マントを手に入れることはできないかもしれませんが、その可能性を探る旅は、非常に価値ある経験となるでしょう。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
見えざる人間の物語のはしり
1754年にイライザ・ヘイウッドが仮名で著した小説『見えざるスパイ』では、魔術師から姿を消せるベルトをもらっています。1833年にジェイムズ・ダルトンが書いた『見えざる紳士』では、主人公が軽率な願い事を通じて、姿を見えなくする力を授かります。不可視化の能力を引き合いに出したものの、現実のことだとは捉えていません。
自然界に対する人類の知識が増えるにつれて、当然のように、自然法則の制約の中ではたして不可視化は可能なのかという考えをめぐらせる人たちが現れました。最初にこの疑問を投げかけたのは、科学者ではなくSF作家です。アメリカ人作家フィッツ=ジェイムズ・オブライエンが1859年に著した『あれは何だったのか?』というタイトルの小説が、不可視性を初めて科学的に追及しようとした物語になりました。
オブライエンの小説の中で大きな影響をおよぼしたのは、科学的なアイデア、特に光学に関係した物語です。光学の中でも、一番昔から実際に観測されている現象を引き合いに出しています。例えば、反射や屈折です。反射光学のはしりは紀元前300年頃には存在していたようです。オブライエンがダイヤモンドのレンズを使ったのは、ダイヤモンドの屈折率が高いからでしょう。
透明クロークの試作品
ペンドリー、シューリヒ、スミスの設計は、変換光学を用いた不可視化クロークを実現するためのものでした。これを不可能としていたのは、自然界に存在しないメタマテリアルが用いられていたからです。
2006年11月にクローキング理論に関する論文が発表された後、6ヶ月後にデイヴィッド・スミスとデューク大学の共同研究者たちは、不可視化クロークの初の荒削りな試作品を作り上げました。この試作品は、マイクロ波の波長で機能するように設計されており、二枚の金属板に挟まれた平たい形状をしています。容易に製造できるように単純化されたもので、理想の不可視化クロークではなかったものの、中央の隠したい領域の周りにマイクロ波を迂回させることができていました。
この不可視化クロークの概念が広まり、以降10年間にわたり、数多くの試みが進められることになりました。