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目次
書籍情報
ルポ低賃金
発刊 2024年4月23日
ISBN 978-4-911256-02-2
総ページ数 236p
東海林智
毎日新聞社編集局社会部記者。
労働と貧困・格差の現場を取材している。
地平社
- 序章 新自由主義の果てに――「新時代の日本的経営」が破壊したもの
- パンデミックが浮き彫りにした低賃金社会
- 実質賃金が上がらない日本
- 労働運動は何をしてきたのか
- 日本を賃金の安い国にした根源はどこか
- 派遣村に来た連合会長の述懐
- 低賃金という現実に、声をあげる
- 第1章 特殊詐欺の冬の花
- 生活苦から「闇バイト」へ
- 歌舞伎町の風俗店の店長
- 「みんなもこうやって生き延びているのか」
- 困窮のなかで犯罪に加担してしまう
- 「殺すなら殺せ。どうせ死ぬんだ」
- 全力で働いてきたのに
- 「サイテーな暮らし」のなかで
- 第2章 個人請負――コロナ禍の直撃を受けた母子世帯
- コロナ禍に追いつめられる
- 初任給の安さから公務員にならなかった
- 「うちは子どもができたら、退職か契約社員」
- 自立できる生活を求めて奔走
- シングルマザーにとって働きやすいシステムだった
- コロナ禍が直撃
- この世から離れようとする自分を、娘が引き止めた
- 老後のためのトリプルワーク
- 第3章 若者漂流
- 人とつながれるシェアハウス
- 社会を生き延びるための知恵を教えられたことがない
- ご飯を食べることも命を守ること
- 身分証明書を確保する大変さ
- 若い世代の現実に寄り添った支援
- 自立への足がかりとなる場所
- 夜の街で声をかけつづける
- 性搾取の泥沼の中で
- 「おかえり」「またね」
- スマホがないとアパートも借りられない
- 第4章 アマゾン宅配労災――偽装フリーランス
- 電話の切れ目が生活の切れ目
- この10年、何も変わっていない
- 「フリーランサー」に衣替えした個人請負
- 配達料金の一方的な切り下げ
- アマゾン配送労災
- AIの導入で配送数が激増
- 一挙手一投足が管理された労働
- 偽装フリーランスへの厳しい視線
- 労働は商品ではない
- 第5章 無期転換の嘆き
- 無期転換ルールの導入
- 低賃金の奴隷のままでいろというのか
- 低賃金が温存された職場
- 「早上がり」 必要なときに必要なだけ労働者を使う
- たまに妻と食事ができると感動する
- 無期転換の過酷な現実をどう打開するか
- ヤマト運輸のシングルマザー
- 第6章 61年ぶりのストライキ
- 非正規差別の是正を求めて闘った女性たち
- 百貨店労働がストに至った経過
- ストなんてありえなかった
- 非正規春闘
- クリスマス期の加給廃止に声をあげる
- 特筆すべき結果も
- 声をあげ、自給アップを獲得する
- 「氷河期世代」の困難
- 第7章 非正規公務員
- 「会計年度任用職員」という非正規労働
- 深刻なハラスメント実態
- 公的機関がワーキングプアを生み出している
- 最低賃金が適用されない
- ダブルワークしなければ成り立たない
- 業務評価Aでも雇い止め
- 第8章 時給101円――持続不可能な日本の農業
- 農民として、困った人に食料を送る
- 最賃を大幅に下回る収入
- 少しでも新鮮な野菜を手渡したい
- アグロエコロジー
- 新自由主義の農業政策から転換できるか
- 対談 雨宮処凛×東海林智
- 現場だから見えること
- 貧困ビジネスだけが進化した
- 絶望の世代
- 派遣法が多くの人生を破壊した
- 労働者の分断により生み出された差別
- ストライキが労働運動を変える
- 奪われてきたものをどう取り戻すか
- おとがき
書籍紹介
内容の概要
本書は、低賃金で働く人々の日常をリアルに描き出しています。特に、非正規雇用やアルバイト、派遣労働者といった、安定した収入が得られない職種の労働者たちが直面する現実が生々しく描かれています。東海林氏は、こうした人々に直接インタビューを行い、その声を通して、読者に「働くとは何か」「賃金とは何か」といった根本的な問いを投げかけます。
社会的意義と問題提起
「ルポ低賃金」は、単なる労働問題にとどまらず、社会全体の構造的な問題を浮き彫りにします。低賃金労働者たちの生活苦は、個人の努力だけでは克服できない構造的な問題であることを、本書は示しています。この点において、読者は経済政策や労働市場の現状に対して深く考えさせられるでしょう。
また、本書は「見えない存在」とされがちな低賃金労働者たちに光を当て、彼らの声を代弁する重要な役割を果たしています。こうした労働者たちがどのような状況で働いているのか、その背景にどのような社会的要因があるのかを理解することで、より公平な社会を実現するための一歩を踏み出すことができるでしょう。
過酷な現実もあることを教えてくれる書籍
「ルポ低賃金」は、現代社会の不平等に対する深い洞察と共感を提供する一冊です。東海林智氏のジャーナリズム精神が凝縮されたこの本は、低賃金労働者たちの現実を知ることで、私たちが社会に対してどのような責任を持つべきかを考える機会を提供してくれます。労働問題や社会的不平等に関心のある方は、ぜひ手に取ってみてください。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
若い世代の現実に寄り添った支援
若者に限らず、多くの失業者が経験するのは、働き始めても最初の賃金が支払われるのが1ヶ月以上先になることです。その間に、手持ちの資金が底をついてしまうこともあります。これは、非正規労働者への取材でよく耳にする話です。
非正規労働者が非正規の仕事を繰り返すことに対して、「辛抱が足りない」「考えが甘い」「もっと条件の良い仕事を探せばいい」など、自己責任を問うような批判を耳にすることがあります。しかし、たとえ雇用保険に加入していたとしても、失業時の給付額はこれまでの給与の約6割であり、十分とは言えません。そんな状況が続いても、食費や家賃などの生活費はかかり続けます。
また、軽い悩みとしては、歯医者に行くことを我慢し、低賃金で働き続ける女性がいます。治療を先延ばしにすることで、後々の治療費が高くなることは分かっていても、食費や交通費、光熱費、家賃、税金といった「普通」の生活費を心配するあまり、診察を受けられないという現実があるのです。
偽装フリーランスの厳しい視線
アマゾンの配送に従事する際、当日の朝まで配送料やルートが知らされないため、受けるかどうかの判断ができません。また、配送ルートや荷物の状態の報告など、指示や監督が行われており、自由に配達することはできません。出勤時間や配送時間、場所に拘束されているにもかかわらず、自営業者とされるのは不適切であるという判断が下されたのも当然です。
自営業ドライバーとされることで、本来は会社側が負担すべき設備費やリスクを個人に転嫁していると考えることができます。日給からガソリン代や車両代、時間の消費を差し引けば、実質的には低賃金の労働者に他なりません。
このような「個人請負」で働く人々の労働環境を、厚生労働省が容認したと見ていいでしょう。「偽装フリーランス」とも言える状況に対し、契約の形式にとらわれず、労働基準法上の労働者であると認定された意義は非常に大きいです。これにより、労災だけでなく、労働時間の規制や有給休暇、休息の保証、残業代を含む労基法上の権利行使への道が開かれたと言えます。
アグロエコロジー
日本の政府による食料支援は、他国に比べると驚くほど貧弱です。
欧米でも、生活困窮者を支援するために余剰農産物を配布しており、それが採算割れをした農家への支援にもなっています。
政府も、所得の減少や物価の高騰など経済的な理由で、十分な食料を入手できない人々が増えていることを理解しているはずです。
日本でも、アグロエコロジーを推奨し、環境と農業の共存を図りながら若者の関心を引こうとしています。しかし、多様性を求める現状が農家のリストラに繋がっており、日本の農業の将来像が見えないのは確かです。