※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。
目次
書籍情報
検証 能登半島地震
首都直下・南海トラフ 巨大地震が今起こったら
発刊 2024年4月8日
ISBN 978-4-296-20481-6
総ページ数 187p
日経クロステック、日経アーキテクチュア、日経コンストラクション
日経BP
- 第1章 フォトルポ
- 記者が見た能登半島地震
- 5分で分かる重要ワード
- 第2章 住宅・建築編
- 震度7の衝撃
- 地図で見る能登半島地震
- 進まぬ被災地復旧
- 被害のメカニズム
- 7階建てビルが横倒しに
- 輪島朝市、大火で焼失
- 半島を回り込んだ津波
- 重要文化財も倒壊
- 木造住宅、耐震補強の有無で明暗
- 緩斜面が液状化
- 免震建物の実力
- 第3章 土木編
- 土木被害の全貌
- 土木被害マップ
- 構造物別被害
- 長大橋
- トンネル
- 斜面崩壊
- 水道
- 復旧奮闘記
- 見えてきた課題
- 第4章 工場・製造業編
- 自動車部品、生産再開を阻む断水
- 村田製作所、工場補修で未稼働も
- 機械・科学系工場、稼働を一時停止
- 南海トラフ地震で半導体工場の震度は?
- 第5章 情報通信編
- 停電でも踏ん張った基地局
- 地元通信会社の奮闘
- 過去の大規模災害と異なる想定外
- 第6章 次の巨大地震に備える
- 巨大地震202X
- 検証・日本の地震対策
- 被害想定・首都直下地震
- 新耐震基準の住宅に倒壊リスク
- 南海トラフの長周期地震動対策
- 被災後「中に戻って大丈夫?」
- 「壊れない都市」へ
- いま巨大地震が起こったら
- 巨大地震への備えは十分か
- 道路橋の地震対策を阻む壁
- 原型復旧の問題露呈した被災3橋
- 地震で崩れる盛り土
- 歩み遅い水道耐震化
- 堤防の耐震補強は後回し
- 津波の想定見直しに困惑
- 第7章 東日本大震災10年にみる課題
- 写真で見る震災10年
- 復興・街づくり編
- 復興はまだ終わらない
- 資格突く見物被害との闘い
書籍紹介
この書籍は、地震に関する科学的知見と、防災対策の実務的な視点を融合させた一冊です。まず、能登半島地震の詳細な分析を通じて、震源のメカニズムや被害の具体例を紹介しています。これにより、地震が持つ破壊力の現実味を読者に伝え、次に来るかもしれない大地震への危機意識を喚起します。
本書の核心部分は、「首都直下型地震」や「南海トラフ巨大地震」といった、今後起こりうる大規模な地震シナリオのシミュレーションです。これらのシミュレーションでは、具体的な被害予測や復旧プロセスを詳述しており、都市計画や建築設計の専門家にとっても貴重な資料となっています。特に、首都圏での被害想定は、経済活動の中心地が大きな打撃を受ける可能性を示しており、その深刻さが強調されています。
防災に役立つ知識
本書の優れた点は、科学的データに基づいた実証的な分析だけでなく、実際の防災対策の現場で役立つ具体的なアドバイスを提供している点です。例えば、建物の耐震補強や防災計画の策定といった具体的な措置についても言及されています。これにより、一般の読者だけでなく、行政や企業の防災担当者にも実用的な知識を提供しています。
一方で、改善の余地があると感じた点として、地域住民の視点や避難生活の現実にもっと焦点を当てることで、読者の共感をより深めることができたかもしれません。地震の技術的な側面に加えて、被災者の人間的なストーリーやコミュニティの復興過程に関するエピソードがもう少し充実していると、さらに多くの読者にとって価値ある内容となったでしょう。
具体的な地震対策を考える
「検証 能登半島地震 首都直下・南海トラフ 巨大地震が今起こったら」は、日本が直面する地震リスクに対する包括的な理解を提供する一冊です。科学的なデータと実務的なアドバイスがバランスよく組み合わさっており、専門家から一般読者まで幅広い層にとって有益な内容となっています。地震への備えを強化するための具体的な指針を提供する本書は、今後の防災対策において重要な役割を果たすことでしょう。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
地盤が2m横に動く
側方流動とは、地震時に液状化によって地盤が水平方向に大きく動く現象です。特に地面が傾斜している場合、液状化した地盤が重力によって斜面の下方に流れ込むことで発生します。
西荒屋地区では、斜面の上部で地下水や土砂が流出し、地割れが起こりました。その結果、上流から流れてきた土砂や水が押し出されるようにして、斜面の下部にある道路が盛り上がってしまいました。
側方流動への対策としては、排水溝を新設し地下水位を下げる工事が有効です。これにより、緩斜面での側方流動を抑制できることがわかっています。
2024年の能登半島地震では、多くの地盤被害が発生しました。石川県だけでなく、富山県や新潟県など日本海側の広い範囲で液状化被害が見られました。特に懸念されるのは、側方流動によってビルの杭が折れ、建物が地盤ごと流される可能性があることです。復旧には時間がかかるでしょう。
半導体工場への影響
巨大地震が発生した際、サプライチェーンへの影響が懸念される重要な要素の一つに半導体があります。
南海トラフ巨大地震の震動想定マップに日本の半導体工場を重ねてみると、多くの工場が震度5弱以上の揺れに見舞われると予測されています。
工場は免震構造を採用し耐震対策を施していることが多いものの、非常に精密な加工を担うため、製造装置が影響を受けると再稼働までに長い時間がかかると考えられます。
また、水道や電力、道路などのインフラが使えなくなる可能性も考慮しなければなりません。実際、2011年の東日本大震災では、ルネサスエレクトロニクスの茨城県ひたちなか市の工場がクリーンルームの被害により3カ月間操業を停止しました。
このような状況を踏まえ、地震対策のさらなる強化が求められます。
自由度の高い復興基金
効果促進事業よりも自由度が高い「取り崩し型復興基金」が効果を発揮しました。復興交付金と比べると金額はかなり少ないですが、1960億円が被害状況に応じて市町村に分配されました。使い方は自治体に委ねられており、災害危険区域に指定されていない範囲にも基金を活用できます。
例えば、住宅ローンの利子補給や浸水区域での宅地のかさ上げなどへの支援が行われました。他にも、タンカーが寄港する桟橋の整備など、復興交付金の対象とならない効果促進事業に対しても基金が補助金として使われています。
国の補助基準に合わない場所に基金を使って手当する仕組みが、もっと普及しても良いという意見も多くあります。