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目次
書籍情報
経済安全保障とは何か
発刊 2024年5月28日
ISBN 978-4-492-44475-7
総ページ数 276p
国際文化会館地形学研究所
2022年7月に国際文化会館とAPIの合併に伴い、国際文化会館内に設立された民間・独立のシンクタンク。
経済安全保障、経済制裁、技術覇権など、幅広い分野で分析を行い、海外シンクタンク、国内外の政官財学のネットワークのハブとなっています。
東洋経済新報社
- 序章 なぜ、今、経済安全保障なのか(船橋洋一)
- 地形学的決闘
- 中露の「無限の協力」「棄権コーカス」、総力戦のグローバル化
- 日本の経済安全保障の3つの”赤字”構造
- 「守る」「攻める」「育てる」
- 第1章 経済安全保障とは何か(鈴木一人)
- 日本における経済安全保障の概念
- 経済安全保障は「安全保障」なのか
- 日本の経済安全保障の特徴
- 「戦略的自律性」にどこまでコストをかけるのか
- 自由貿易と経済安全保障
- 国家安全保障としての経済安全保障
- 第2章 国家戦略としての経済安全保障(細谷雄一)
- 国家戦略の中核としての経済安全保障
- 経済安全保障の概念の歴史的発展
- 戦後日本政治における経済安全保障
- 日米安保条約第2条の重要性
- 「国家安全保障戦略(2013年)」の中の経済安全保障
- 菅政権から岸田政権へ
- 新たな「国家安全保障戦略」へ
- 「国民経済安全保障戦略」は可能か
- 国家戦略の中核としての経済安全保障
- 第3章 日米関係と経済安全保障(神保謙)
- 戦略的競争としての経済安全保障
- 対中強硬路線への融合
- エコノミック・ステイトクラフトの包括的適用
- 経済安全保障法案と日米の協調
- 軍事的分野への適用
- 軍事技術の変化と戦闘のトレンド
- ゲームチェンジャー技術 次世代の戦闘を規定
- 軍事領域の経済安全保障
- 新興技術を保全する
- 新興技術を育成する
- 国政的な連携を推進する
- 第4章 デジタル・サイバー安全保障(村井純)
- サイバーセキュリティ新時代に
- 日本のサイバーランキング
- 変化し続けるサイバーセキュリティ上の脅威
- CSIRTからの出発
- ホームページの改ざん
- DDoS攻撃
- マルウェア攻撃
- ランサムウェア攻撃
- サイバー空間を舞台にした新しい情報戦争
- デジタルデータとセキュリティ・クリアランス
- クリティカルインフラストラクチャー
- 人材と教育
- サイバーセキュリティと経済安全保障 日本の課題
- 第5章 経済安全保障とエネルギー(エネルギー安全保障)(柴田なるみ)
- 「経済安全保障」とエネルギー
- 日本のエネルギー安全保障 求められる課題
- 再生可能エネルギーの現状と課題
- 原子力活用は可能か
- 化石燃料の展望
- 国の総力を挙げて対応せよ
- 第6章 健康・医療領域の経済安全保障(相良祥之)
- 国家的危機としての「健康危機」
- 感染症とCBRN
- 健康・医療領域の重要物資
- 戦略物資としてのワクチン
- mRNAワクチン
- 日本にほけるワクチンをめぐる過去の議論
- 戦略と司令塔の乱立
- 医薬品の開発・生産 モデルナはなぜmRNAワクチンを社会実装できたか
- 医薬品開発ではスタートアップとVCが主役
- 世界初のコロナワクチン接種を実現させた英国ワクチン・タスクフォース
- 医薬品生産で進む水平分業
- 「国産ワクチン開発」は本当に目指すべき目標か
- 国民の命と健康を守るための経済安全保障政策
- 情報と政策の統合
- 政官財学の連携の深化
- 重要技術・物資の機動的なターゲディング
- 特定重要物資としての医薬品
- コアキャパシティとサージキャパシティ
- プル型インセンティブによるサプライチェーン強靭化
- 政官財学をつなぐプロフェッショナル
- 国家的危機としての「健康危機」
- 第7章 国際経済と経済安全保障(大矢伸)
- ロシアのウクライナへの侵略と経済制裁
- 経済制裁
- の内容
- の効果
- だけで十分か
- の解除
- 経済制裁
- 相互依存の武器化
- SWIFT
- CIPS
- CBDC
- デジタル人民元
- おわりに
- ロシアのウクライナへの侵略と経済制裁
- 第8章 安全保障生産・技術基盤(尾上定正)
- 経済安全保障の要諦は軍事と産業・技術の最適関係の構築
- 防衛産業の役割と現状
- 不十分な新興技術の軍事・安全保障への応用
- 安全保障貿易管理と装備移転三原則の統合
- 防衛産業と民間の両用技術を融合した「安全保障生産・技術基盤」の強化
- 終章 日本の経済安全保障はどうなるのか(細谷雄一)
- 「パワー・エコノミックス」時代の到来
- 日本の経済安全保障政策の新段階
- 経済安全保障推進法を超えて
- 「自由で開かれた国際秩序」との調和の必要
- 補論1 経済安全保障100社アンケート(富樫真理子)
- 地政学リスクの事業影響は、すでに現実のものに
- 企業は地政学への感度を高めている
- 企業は中長期的な事業環境の安定を求めている
- 日本政府に求められる2つのバランス
- 企業の取り組みは進展、セキュリティ・クリアランス制度が喫緊の課題
- 政府と企業が当事者、官民連携を次のレベルへ
- 補論2 海外から見た日本の経済安全保障の議論(越野結花)
- 日本の安全保障政策イメージ
- 日本への注目
- 課題
書籍紹介
本書の概要
本書は、経済安全保障の基本概念から最新の事例までを包括的に扱っています。著名な学者や専門家による寄稿が多数収録されており、理論的な枠組みだけでなく、具体的な事例分析を通じて、読者に実際の国際情勢を理解させることを目指しています。
経済安全保障の重要性
経済安全保障とは、国家がその経済的利益を保護し、敵対的な経済行動から自国を守るための政策や戦略を指します。本書では、この概念がどのように発展してきたか、そして現代の国際社会においてどのように適用されているかを詳しく説明しています。特に、サプライチェーンの安全性や技術覇権、エネルギー資源の確保など、具体的な課題についての分析が興味深いです。
具体的な事例と分析
米中貿易戦争や半導体産業の競争など、最新の国際的な出来事を背景に、各国がどのように経済安全保障を実践しているかを解説しています。また、これらの事例を通じて、日本が取るべき戦略についても示唆を与えています。
経済安全保障を学ぶ方へ
経済安全保障の重要性を理解し、現代の複雑な国際情勢に対処するための知識を深めるための貴重なリソースです。この書籍を通じて、経済安全保障についての理解を深め、未来の政策形成に役立てていただければ幸いです。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
日本のサイバーランキング
ITU(国際電気通信連合)は2021年6月28日に「GCI2020」を発表しました。これは最新のサイバーセキュリティインデックスに関する報告書で、日本はシンガポールやマレーシアに次いで5位にランクインしました。しかし、世界全体の順位では7位とされ、2023年には10位にランクを下げています。
ロシア、中国、米国の動きに注目し、地政学的な観点から評価された15カ国の中で、日本は最下位の評価グループであるTier3に分類されました。その理由として、官民個人のサイバーセキュリティ対策が不十分であること、行政の技術対応が整備されていないこと、安全保障の観点からサイバー攻撃への対処が不十分であることが挙げられます。
化石燃料の展望
COP26では、石炭火力発電の扱いについて意見が分かれました。英国や欧州諸国は2040年までの全廃を求めていますが、新興国や資源国はこれに反対しています。
日本も圧力を受けましたが、岸田首相は石炭火力発電の廃止には言及しませんでした。現実的な電力危機を考慮すると、エネルギーの多様化が必要です。火力発電の選択肢も確保しておくべきでしょう。
脱炭素に向けたエネルギーシフトには長い時間と多額の投資が必要です。その過程で目先のエネルギー安全保障を損なうと、長期的な取り組みの持続性も失われる恐れがあります。
再生可能エネルギーの不安定さをどう補うかについて、日本のように資源の乏しい国では、原子力や化石燃料を含む多様な選択肢を維持することが必要です。
特定重要物資としての医薬品
2022年後半、日本は重要物資のサプライチェーンの脆弱性を調査するためのマッピングを行い、特定重要物資を選定しました。その筆頭に挙げられたのが、医療現場で感染症予防・治療に必要不可欠な抗菌性物資製剤です。これらの原材料は主に中国から輸入されています。
医薬品においては、品質の確保と安定供給が極めて重要です。特に、毎日服用が必要な薬が欠品することは致命的な問題となります。厚生労働省は、以前から血液製剤やワクチン、その他医薬品の供給不足に対する対策を講じ、安定供給を確保するための取り組みを続けてきました。
厚生労働省医政局が安定供給医薬品の検討を始めて以降、国内のジェネリック医薬品メーカーで次々と法令違反が発覚しました。これにより、後発医薬品メーカーに対する行政処分が相次ぎ、国内での安定供給が難しい状況が生じています。経済安全保障のリスクを前に、日本国内の医薬品製造の脆弱性が露呈しました。その結果、医療団体と連携し、特定重要物資として抗菌性物資製剤を選定することになりました。
ロシアへの経済制裁
経済制裁によってロシアからのエネルギー輸入が停止され、エネルギー価格が高騰しました。しかし、ロシアは中国やインドなどに輸出を続けたため、収入減にはつながりませんでした。
一方、ロシアへの輸出制限により、半導体を含む技術資源を直接入手することができなくなっています。制裁の効果は不明ですが、過小評価することはできません。
世界全体でロシアへの経済的依存を低減する狙いは、一定の効果を上げています。これからも、エネルギー輸入をロシアに依存する国々への交渉努力が不可欠となるでしょう。