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目次
書籍情報
現役高校教師の挑戦
南極せんせい
発刊 2024年5月2日
ISBN 978-4-910612-13-3
総ページ数 249p
北澤佑子
2018年から茨城県立守谷高等学校に勤務。茨城県の教師で初めて、教員南極派遣プログラムに選出され、第61次南極地域観測隊同行者として活動し、「南極授業」を実施。
プレアデス出版
- プロローグ
- 第一章 南極をめざして
- きっかけ
- 教員採用試験
- 応募までの道のり
- 初挑戦
- 99%
- ともに生きる心、挑戦への原動力
- 極地研にて
- 二回目の挑戦
- 異動
- 南極観測シンポジウム2018
- 不安と葛藤
- 高校生南極派遣プログラムの提案
- 第二章 三回目の挑戦
- 例年より早い、募集開始!
- 母の病
- 面接試験
- 「どこに行くの?」
- 冬期総合訓練
- 南極での歩き方 ルート工作
- クレバス脱出&救出訓練
- 南極で生きる覚悟 命、人生を預け合う
- 厳格な健康診断
- 夏期総合訓練
- 正式発表
- 隊員室開き
- 全校集会
- スタッフTシャツ
- 教え子たちとの再会
- 全員打ち合わせ
- 「しらせ」体験航海
- 荷物搬入
- 明治記念館での壮行会 仲間とともに南極へ
- 「しらせ」出港
- 感謝と応援を胸に
- 成田空港
- 第三章 いざ、南極へ
- 人生初めての海外旅行
- 絶叫の南極海域
- 初氷山
- ラミング航行 がんばれ! 破氷艦「しらせ」
- 「しらせ」での生活
- 船室の相方
- 世界初の観測
- 第四章 ついに到着
- 初めての一歩
- 昭和基地での日々
- 最も恐怖を感じた日
- 合言葉
- 南極での様々な活動
- 南極で出会った自然
- 第五章 『南極授業』
- 高校教師、南極へ行く
- 膨らむ構想、見つめ直した原点
- 道徳教育 人間を育てる南極
- 理科教育 産休的な学習の土台
- 出発前の準備 飼育装置を自作
- 「しらせ」船内 チーム南極授業、結成
- 熱い議論、涙も
- 初!昭和基地での魚の飼育に挑戦
- いざ、本番
- 妹の誕生日
- 越冬交代式、別れの日
- オーロラ
- 帰途
- 第六章 南極せんせい
- 四カ月ぶりの我が家
- 南極せんせい、おかえりなさい
- 犬ぞり隊のタロとジロ、そしてリキ
- 南極魂
- 新たな夢に向かって
- あとがき
書籍紹介
南極観測隊に参加するという異色の挑戦を描いたエッセイです。この本は、教育現場と極地探検という一見すると相反する世界を結びつけた、ユニークで刺激的な読み物です。
あらすじ
北澤さんは、高校教師として生徒たちに接してきましたが、ある日、南極観測隊の隊員募集に応募し、見事に合格します。教師としての視点を持ちながら、未知の世界に飛び込む決意をした彼女は、極寒の地での生活や観測活動を通じて、多くの困難や発見に直面します。
内容と魅力
この本の魅力は、南極という過酷な環境における生活や観測活動のリアルな描写にあります。北澤さんは、極地の厳しい自然環境や隊員たちの奮闘を臨場感たっぷりに描き出しています。加えて、彼女の教師としての経験が生きる瞬間が随所にあり、教育現場と南極での体験が交錯する様子が新鮮です。
特に印象的なのは、生徒たちとのコミュニケーションを通じて、南極での体験を共有するエピソードです。インターネットを駆使して南極から学校にメッセージを送り、生徒たちにリアルタイムで南極の様子を伝える試みは、教育の新たな可能性を感じさせます。また、過酷な状況下でのチームワークやリーダーシップについての洞察も豊富で、読み応えがあります。
教育現場への影響
教育現場における新たなアプローチを提案する一冊でもあります。北澤さんの挑戦は、生徒たちにとっても大きな刺激となり、学びの意欲を引き出すきっかけとなるでしょう。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
南極観測シンポジウム2018
国際情勢の変化に伴い、国立極地研究所は時代に対応した新しい南極地域観測事業の将来について検討しています。2034年頃に予定されている観測船の就航を視野に入れたものです。その一環として、南極地域観測事業に関心を持つ方々の意見を聞くために「南極観測シンポジウム2018」を企画しました。
実は以前から、高校生も南極に行けるようになればいいと考えていました。高校生は、国家や社会にどのように関わるのか進路に悩む時期です。伝承や知識、情報だけでなく、自分の体で直接体験することで得られるものがあると期待しています。
私は、南極の昭和基地から授業を生徒たちに届けたいと強く思い、南極地域観測隊の面接試験に通過することを願っています。
「しらせ」での生活
「しらせ」での航海中、景色は刻一刻と変わっていきます。飽きることはなく、南極の大自然を感じられる喜びを噛みしめていました。
大きな氷山、こちらを見つめるアザラシ、勢いよく海に飛び込むペンギン、目の前に広がる南極の風景に常に感動します。非日常が日常になっていく不思議な感覚です。
朝6時に放送される号令から船上の1日が始まります。真水は貴重で、トイレもバルブをひねって海水を流す仕組みになっています。お風呂も海水を使っていて、保温効果があるものの少しピリピリします。洗濯機は船の揺れで度々止まるため、その度にスイッチを入れに行きます。そして、空気は乾燥しているので、一日中静電気に悩まされます。
食事のアナウンスが流れると、隊員が食堂に集まります。入室時に名札をひっくり返すのは、食事を済ませたことを示すと同時に、生存確認の意味もあります。献立が毎日変わる中、金曜日には軍艦カレーが提供され、それが楽しみの一つになっていました。
南極での様々な活動
昭和基地沖の海氷の上で、私は海氷分布のモニタリングや海氷下のプランクトンの調査を目的とした観測に参加しました。
「しらせ」や昭和基地から観測機材をソリに乗せ、スノーモービルで海氷上を移動し、観測地点に向かいます。積雪の深さを測ったり、海氷に穴をあけて氷の柱(コア)を採取したりしました。プランクトンなどの生態系観測は初めての試みで、海氷が南極の環境や生態系にどのように影響しているのか、新しい研究結果が期待されます。
昭和基地には南極初の観測レーダー『PANSY』があります。東京ドーム2個分の広さの土地にアンテナが並び、オゾンホールやオーロラ、気象変動予測などの研究に役立っています。
アンテナが雪で埋もれないように除雪を手作業で行っていると聞き、私も他の隊員とともに自ら志願して除雪作業に加わりました。
南極せんせい、おかえり
自宅待機を終えて、森谷高校に向かいました。
生徒たちは私のもとに駆け寄り、笑顔で迎えてくれました。森谷高校の生徒たちは、南極から戻った私を親しみを込めて「南極せんせい」と呼んでくれます。
感動のあまり、講演の内容が吹き飛んでしまいました。
また、地元の茨城県筑西市では「南極せんせい写真展」を開催していただきました。来場された地元の皆さんとたくさん交流することができ、私が南極で撮影した写真や実際に使用した観測機材に直接触れてもらいながら、南極での体験を話しました。