※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。
目次
書籍情報
スタートアップとは何か
経済活性化への処方箋
発刊 2024年4月19日
ISBN 978-4-00-432013-5
総ページ数 270p
加藤雅俊
商学博士。関西学院大学経済学部教授。同アントレプレナーシップ研究センター長。
専門は産業組織論、アントレプレナーシップの経済学、イノベーションの経済学
岩波書店
- はじめに
- 第Ⅰ部 スタートアップを知る
- 第1章 研究者の視点で見るスタートアップ
- 1 「スタートアップ」の意味
- 2 スタートアップの「光」
- 3 スタートアップの「影」
- 4 スタートアップに対する公的支援
- 第2章 多様な起業家とスタートアップ
- 1 多様な起業家タイプ
- 2 スタートアップの異質性
- 3 ポテンシャルの高い「従業員スピンアウト」
- 4 大学発スタートアップの可能性
- 5 多様性の理解に向けて
- 第1章 研究者の視点で見るスタートアップ
- 第Ⅱ部 スタートアップの登場・成功を探る
- 第3章 スタートアップの登場要因
- 1 スタートアップの登場要因を探る理由
- 2 起業家の個人特性
- 3 新しい企業が誕生しやすい環境
- 4 「遺伝」対「環境」
- 第4章 スタートアップの成功要因
- 1 スタートアップの成功と失敗
- 2 創業後の「成否」の指標
- 3 成功のための三要素
- (1)起業家が持つ資源
- (2)スタートアップの企業特性
- (3)創業後の戦略
- 4 創業時の条件の重要性
- 第3章 スタートアップの登場要因
- 第Ⅲ部 日本のスタートアップを考える
- 第5章 「起業家の登場」への処方箋
- 1 日本における起業活動の現在地
- 2 世界における日本の位置
- 3 起業無縁層と起業教育
- 4 企業と労働の流動性
- 5 起業の「量」対「質」論争
- 6 「起業家の登場」へ向けて
- 第6章 「スタートアップの成長」への処方箋
- 1 スタートアップの成長
- 2 リスクマネーの供給
- 3 成長支援における「企業年齢」
- 4 大企業の役割
- 5 「競争」という視点
- 6 スタートアップの成長に向けたその他の論点
- 第5章 「起業家の登場」への処方箋
- おわりに
書籍紹介
スタートアップという言葉が、ビジネスの世界で日常的に使われるようになって久しいです。多くの人々が成功を夢見てこの道に挑みますが、その本質や成功の鍵を理解している人は意外に少ないかもしれません。加藤雅俊氏の著書『スタートアップとは何か 経済活性化への処方箋』は、スタートアップの世界に関心を持つすべての人にとって必読の一冊です。
スタートアップの定義と役割
スタートアップを単なる新興企業と捉えるだけではなく、その独自の文化や価値観、経済に与える影響について深く掘り下げています。スタートアップは、単なる利益追求のための企業ではなく、イノベーションを通じて社会に新しい価値を提供し、経済を活性化させるエンジンであると説いています。
成功の要因とチャレンジ
本書は、スタートアップが直面する様々なチャレンジにも光を当てています。資金調達、チームビルディング、マーケットフィットの探求など、スタートアップが成功するために克服しなければならない課題を具体例とともに紹介しています。また、失敗から学ぶことの重要性も強調しており、実際のケーススタディを通じて、読者に現実的な視点を提供します。
日本におけるスタートアップの未来
特に興味深いのは、日本におけるスタートアップの現状と未来についての考察です。加藤氏は、日本の経済環境や文化的背景を踏まえた上で、どのようにしてスタートアップが成長し、経済を活性化させることができるのかを詳細に分析しています。政府の支援策や教育機関との連携の重要性など、具体的な提言も多数含まれており、実践的なガイドとしても非常に有益です。
これから起業を目指す人へ
『スタートアップとは何か 経済活性化への処方箋』は、スタートアップに関わるすべての人々、特にこれから起業を目指す若者やビジネスパーソンにとって、貴重な知識とインスピレーションを提供してくれる一冊です。加藤雅俊氏の明快な解説と鋭い分析により、スタートアップの本質とその可能性について深く理解することができるでしょう。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
雇用創出
新しい企業の登場は、雇用創出に大きく貢献すると期待されています。従来の定説では「雇用創出の担い手は中小企業である」とされていますが、近年の国内外の研究によれば、雇用を生み出しているのは小規模な企業の多くが創業間もない「スタートアップ」であるという事実が明らかになっています。
日本におけるデータでは、創業後10年を経過した企業の雇用変化はマイナスに転じることが観察されています。新規企業は創業初期に雇用を喪失する機会が少ないため、雇用が大きくプラスに働くのは当然です。
新しい企業が誕生すると、経営者自身の雇用と従業員の採用を通じて雇用創出に寄与します。同時に、既存企業に対して排除効果をもたらし、これにより既存企業でも新たな雇用の創出が必要となります。
実際、開業率の高い地域は低い地域に比べて雇用創出率が高いことが示されています。スタートアップの登場が地域の発展にもつながると考えられるのです。
高い退出率と低い成長率
スタートアップはさまざまな困難に直面します。創業後1年で約20%の企業が退出し、5年後には半数ほどしか生存していないという現実があります。
これは英国ケンブリッジ州のデータですが、1990年に設立された企業のうち、10年間生き残り、かつ継続的な成長を実現したのはわずか6%でした。スタートアップ全体を考えると、この割合はさらに低いでしょう。
一般的に、企業はJカーブを描くように急成長すると言われますが、それはごく一部の企業に限った話で、例外と考えるのが妥当です。「企業成長は持続しない」ということは、これまでの研究で確認されています。
スタートアップで高成長した企業のほとんどは「一発屋」であり、その現実は非常に厳しいものです。スタートアップの「光」は強調されがちですが、その「影」はあまり表には出てきません。
それでも、スタートアップには価値があります。これらの事実を理解した上で、「スタートアップを通じた経済活性化」をどう実現するかを考えることが求められています。
M&Aによる退出
一般的に、企業にとって売却による退出は、生き残ること以上に成功と見なされることが多いです。特に創業者が利益を得る場合です。通常、売却して退出するのは高成長を遂げたスタートアップに限られます。
高成長を遂げた企業の選択肢としては、M&A(合併・買収)を通じた退出や新規株式公開(IPO)があります。IPOも起業家にとっての退出戦略の一つと見なされており、企業にとって重要な資金調達手段となります。もちろん、IPOを行わずにさらなる高成長を目指す場合もあります。
一方、高成長を実現できない企業にとって最善の選択肢は生き残ることです。業績が悪化するにつれて、退出の選択肢は自主廃業や倒産に限られていきます。
出口の多様化
各国のスタートアップ支援は、「入口」に注目しがちです。しかし、人々のインセンティブを高めるには、「出口」にも目を向ける必要があります。
日本では事業の継続が最優先とされる考えが根強く残っていますが、多くの起業家にとって、事業の継続だけが成功ではありません。M&AやIPOは、起業家にとって最良の選択肢と考えられています。キャピタル・ゲインを狙う投資家にとっても、日本のスタートアップが投資対象として魅力的でなくなるかもしれません。
米国と比較すると、日本ではスタートアップが事業売却によって退出する機会が依然として少ないです。米国ではM&AがIPOの約9倍、欧州でも約2倍の頻度で出口として活用されていますが、日本ではM&Aによる退出はIPOの約3分の1です。IPO以外にも、起業家や投資家が資金を回収できる機会を増やす必要があります。
また、日本では伝統的に関係会社による救済を目的としたM&Aが行われることがあります。そのため、高成長企業が新陳代謝を経て新しいイノベーションを起こすこともほとんどありません。高成長スタートアップによるM&Aによって退出が増える機会が必要です。