台湾の本音/著者:野嶋剛

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書籍情報

タイトル

台湾の本音

”隣国”を基礎から理解する

発刊 2023年12月30日

ISBN 978-4-334-10170-1

総ページ数 203p

著者

野嶋剛

朝日新聞社で台湾支局長を経験。2016年に独立。

ジャーナリストと活躍するほか、大東文化大学社会学部教授も務める。

出版

光文社

もくじ

  • まえがき
  • 第1章 台湾は「国」なのか
    • なぜ日本人は台湾を国だと思わないのか
      • 日本人の大きな誤解
      • 足りないのは国際承認
      • 「国ではない」と言えるか
    • 台湾なのか、中華民国なのか
      • 地域の名は台湾、国の名は中華民国
      • 中華民国と台湾の同化
    • 台湾民主化のプロセス
      • 台湾の「首都」はどこ?
      • 蔣経国が敷いた民主化へのレール
    • 台湾ではなぜ政権交代が起こるのか
      • 熱気あふれる「まつりごと」
      • 頻繁に政権交代が起こる理由
      • 選挙で変わるという雰囲気
    • 新たな字田ぢを迎えた台湾
      • 反省を活かした新型コロナ対応
      • 3日で作られたマスク在庫アプリ
      • 国を挙げてのDX化
      • 蔡英文の次の総統は誰に?
      • 台湾は未認証「国家」である
  • 第2章 台湾の「歴史」はいつから始まるか
    • 大航海時代に発見された麗しの島
      • 台湾に関わる3つの歴史観
      • 東アジアの貿易拠点としての歴史
      • フォルモサ、美しく麗しい島
    • 日本の統治下時代と近代化
      • 日新戦争で割譲された台湾
      • 清に重要視されなかった「化外の地」
      • 日本が台湾に持ち込んだ近代化
      • 日本統治下への評価
    • 戒厳令時代と台湾海峡危機
      • 犬が去って豚が来た
      • 多元社会ゆえのディスコミュニケーション
      • インテリを排除した白色テロ
      • 台湾海峡危機と第三次世界大戦の恐れ
      • 未承認国家と民主化への道
  • 第3章 台湾の人々は「中国」をどう考えているのか
    • 民主化へと導いた指導者・蔣経国
      • 中国統治の証明
      • 民主化へ導いたキーパーソン
      • 国策から始まった半導体企業
      • 上と下からの革命
      • 民主化へ一体となった時代
    • 中国が持つ台湾統一の意志
      • 台湾統一は中国共産党のドグマ
      • 李登輝が発表した「二国論」
    • 台湾と中国のパートナー関係
      • 強くなるビジネスの結びつき
      • 国共和解の思惑
      • 中国に対する危機感の表出
      • 台湾に対する不変のドグマ
  • 第4章 「台湾アイデンティティ」はなぜ生まれたのか
    • 天然独世代が生まれるまで
      • 半数以上が「台湾人である」と考える
      • 「台湾アイデンティティ」の萌芽
      • 熟成していく台湾アイデンティティ
      • 生まれながらの独立派
      • 若者たちのキーワード「小確幸」
      • 天然独世代の投票行動
    • 「ひまわり学生運動」と蔡英文政権
      • 中国に近づきすぎた結果
      • 平和的な解決へ
      • 台湾が抱える悩み
      • 孤独死が少ない理由
      • 若者の政治参加とジェンダー平等
    • 迫る中国の「一国二制度」
      • 香港で起きた雨傘運動
      • 香港民主化デモの追い風
      • 片想いの先に
  • 第5章 台湾は「親日」と言っていいのか
    • 「親日」になる台湾人と「親台」になる日本人
      • キーワードは「好客」
      • 同調圧力の少ない風土
      • きっかけとなった日本のカルチャー
      • 台湾を知れる文字・映画
      • 義援金が250億円以上集まった理由
    • 日本人を振り向かせた立役者
      • 戦後の米日台関係
      • 「漢賊並び立たず」
      • 日本兵として従軍した李登輝総統
      • 「台湾人に生まれた悲哀」
    • 経済と安全保障をめぐる関係性
      • 台頭以上のビジネス関係へ
      • 日本と台湾の共通点
  • 第6章 「台湾有事」は本当に起きるのか
    • いまだ内戦状態にある台湾と中国
      • 軍事侵攻の可能性
      • すでに現状が「台湾有事」
      • 第三次台湾海峡危機による混乱
      • 中国の軍事演習に動じず
    • 台湾有事は世界の有事である
      • 台湾進攻、一つのシナリオ
      • 最悪のケースとは
    • 総統選挙と台湾のこれから
      • 相当選挙の”ある法則”
      • 米中対立に巻き込まれる台湾
      • 台湾独立に対する思い違い
      • 台湾の人のバランス感覚
      • 日本は今何ができるか
  • あとがき

書籍紹介

 現代において、日本と台湾の関係はますます重要性を増しています。そんな中、台湾についての理解を深めたいと思っている人にぴったりの一冊です。

著者紹介

 野嶋剛氏は、長年にわたりアジアを中心に取材を続けてきたジャーナリストです。台湾に精通し、その歴史、文化、政治、経済に関する深い知識と洞察力を持っています。本書では、彼の豊富な経験と知識が余すところなく反映されています。

書籍の概要

本書は、以下のようなテーマに焦点を当てています:

  1. 台湾の歴史と文化: 台湾の歴史は複雑であり、多様な文化が交錯しています。本書では、台湾の原住民文化から現代の多文化社会までを網羅し、読者に台湾の歴史的背景を提供します。
  2. 政治と経済: 台湾の政治システムや経済状況についても詳しく解説しています。特に、台湾と中国の関係や、日本との経済的つながりについての分析は必見です。
  3. 社会と日常生活: 台湾の人々の日常生活や社会構造についても触れています。これにより、台湾に住む人々の本音や、彼らが直面している現実を理解することができます。

主要なポイント

  • 多面的な視点: 野嶋氏は、多角的な視点から台湾を描き出しています。歴史的背景だけでなく、現代の政治・経済状況、そして人々の生活に至るまで幅広くカバーしています。
  • 現地の声: 著者は現地での取材を重ね、台湾の人々の生の声を紹介しています。これにより、読者は台湾の現実に直に触れることができます。
  • 日中台の関係: 台湾を理解する上で欠かせないのが、日中台の関係です。本書では、この三者の複雑な関係性をわかりやすく解説しています。

おすすめポイント

この書籍は、以下のような方々に特におすすめです:

  • 台湾に興味がある方:台湾についての知識を深めたい方にとって、本書は最適な入門書です。
  • 国際関係に関心がある方:台湾と日本、中国との関係を理解する上で重要な視点を提供します。
  • 旅行を計画している方:旅行前に台湾の背景を知ることで、現地での体験がより豊かになるでしょう。

まとめ

『台湾の本音 ”隣国”を基礎から理解する』は、台湾の多面的な姿を丁寧に描き出した一冊です。野嶋剛氏の鋭い洞察と豊富な取材経験が詰まったこの書籍は、台湾に関心を持つ全ての人にとって必読の書です。光文社新書からの出版で、手に取りやすい価格と形式で提供されています。台湾の実情を深く理解し、隣国としての関係を再考するために、ぜひこの機会に読んでみてください。

試し読み

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

日本統治下への評価

 台湾の人々から見ると、差別は存在しました。多くの面で日本人の方が有利な立場にありました。実際に霧社事件や抗日闘争も起こっています。

 しかし、近代化が進むにつれて、台湾内でも富の分配が進み、豊かな生活を送る人も増えました。そのため、すべての人が不満を抱いていたわけではなさそうです。

 日本の統治時代を語る際に、台湾では韓国に比べて否定的な意見が少ないのには、台湾特有の理由があると考えられます。

 台湾にはナショナリズムや伝統を強く刺激するような統一王朝や強い政権がありませんでした。さらに、日本が台湾を統治した期間は約50年で、これは朝鮮の約30年よりも長いのです。統治期間が長いことで、施策の成果が現れることもあるでしょう。

 日本の統治時代が終わり、国民党政権の支配が始まったとき、一度は「祖国復帰」を喜びました。しかし、国民党の悪政や弾圧と比較すると、日本の統治時代はそれほど悪くなかったと考える人も多いようです。

中国とのビジネスの結びつき

 1980年代以降の経済成長により、台湾の景気も上向きになりました。工業生産における賃金やコストも上昇しました。そのため、台湾企業は安い労働市場を求めて、1990年代後半から中国に合弁企業を設立し、工場を建設するようになりました。

 中国も1970年代末に経済改革開放政策を採用して以来、経済規模を一貫して拡大させてきました。1990年代には海外資本による各種工業が発展する時代となりました。中国にとっては、IT産業で世界の先端を行っていた台湾の技術を取り入れるメリットがあり、台湾にとっては安い人件費で製品を製造できるというメリットがありました。

 現在の習近平政権も、中国に進出する台湾企業や台湾人に対して優遇措置を講じています。アメリカや日本との貿易は中国に取って代わられました。2000年には対中依存度が約20%だったものが、2008年には約40%に上昇し、現在でもその依存度は変わっていません。むしろ、今後さらに増加することが予想されます。

対等以上のビジネス関係へ

 日本と台湾は貿易のパートナーとして強い結びつきを持っています。2022年、台湾の日本からの輸入額は約546億ドルに達しました。

 1950年代から、台湾にとって日本は主要な輸出先であり、当時は農産加工品などを中心に取引が行われていました。1960年代になると、台湾は国内に加工輸出区を設け、国外からの工業投資を募りました。主要な投資元は日本で、生産機械や部品の輸入だけでなく、技術や駐在員といった人材も入りました。台湾で生産された工業製品はアメリカや日本に輸出されるという流れが生まれたのです。

 1970年代には、蔣経国による十大建設計画によってインフラ整備が進み、電子産業が発展しました。1980年代には、国策企業の民営化が進み、経済の自由化が図られたことで、アメリカや日本以外の国とも活発な貿易が行われるようになりました。

 国策企業として設立されたTSMCは、PCやスマホの需要が世界的に増える中で、世界最大級の半導体受託製造企業となりました。台湾の企業は、部品の受託製造に特化し、自社ブランドを持たない性質があります。このため、グローバル化とともに迅速かつ柔軟に対応できることから、世界中で台湾企業の需要が高まっています。

 現在、日本政府はソニーグループなどと共同で、TSMCの工場を熊本県菊陽町に誘致するため官民一体で取り組んでいます。日本政府がTSMCに対して4600億円もの協力費を支払っているのは、まさに「土下座してでも日本に来てほしい」という強い要望を示しているのです。

中国の軍事演習に動じない

 2022年8月4日からの軍事演習において、中国はこれまでの台湾海峡を越える数のミサイルを発射しました。そのミサイルは台北上空を通過しました。

 中国の狙いは、台湾社会に混乱を引き起こすことだったかもしれません。株価の暴落、民衆の混乱、SNSでの不評などが予想されました。しかし、台湾の大衆は冷静に中国のミサイル発射を受けとめていました。

 本格的に中国が侵攻を仕掛ける要素がなかったこと、経済的なつながりが大きいことから、中国が台湾を攻撃するデメリットが多いことが指摘されています。中国が侵攻するメリットが少ないことを、台湾に住む人々が理解していることも大きな要因です。

 また、最高指導者として三選を狙う習近平のアピールに過ぎないという見方が台湾で強かったのです。そして、その読みは当たっていたように思えます。

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