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※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
目次
書籍情報
口の立つやつが勝つってことでいいのか
発刊 2024年2月20日
ISBN 978-4-7917-7599-6
総ページ数 269p
頭木弘樹
文学紹介者。
長い闘病生活の時に、カフカの言葉が救いになった経験を活かして今に至る。
青土社
- はじめに 「言葉にしないとわからない」×「うまく言葉にできない」
- 言葉にできない思いがありますか?
- 口の立つやつが勝つってことでいいのか!
- 思わず口走った言葉は、本心なのか?
- 理路整然と話せるほうがいいのか?
- 好きすぎると、好きな理由は説明できない
- 「無敵の心理学」がこわい……
- 自伝がいちばん難しい
- 短いこと、未完であること、断片であること
- 世の中こんなものとあきらめられますか?
- 能力のある人がちゃんと評価されれば、それでいいのか?
- 金、銀、銅、釘のお尻
- 「感謝がたりない」は、なぜこわいのか?
- 「かわいそう」は貴い
- どんな事情があるかわからない
- 愛をちょっぴり少なめに、ありふれた親切をちょっぴり多めに
- 思いがけないことは好きですか?
- 牛乳瓶でキスの練習
- 行き止まりツアー
- 思い出すだけで勇気の出る人
- 「カラスが来るよ!」と誰かが叫んだ
- 違和感を抱いている人に聞け!
- 別の道を選んだことがありますか?
- 後悔はしないほうがいいのか
- 8回、性格が変わった
- 人の話を本気で聞いたことがありますか?
- 意表をつく女性たち
- もう嫌だと投げ出す爽快
- 迷惑をかける勇気
- あなただけの生きにくさがありますか?
- つらいときに思い出せるシーンがありますか?
- 倒れたままでいること
- 暗い道は暗いまま歩くほうがいい
- 失うことができないものを失ってしまったとき、どうしたらいいのか?
- 大好きな先生はいましたか?
- とろ火の不幸
- 「死んだほうがまし」な人生を、どう生きていくか?
- 目を病んだときの父のにおい
- 現実がすべてですか?
- 永遠に生きられるつもりで生きる
- 神の矛盾
- 幻影三題
- 土葬か火葬か星か
- 人の青春、虫の青春
- 死んだ人からの意見
- 電話ボックスとともに消えた人間の身体
- もうひとりの自分
- 誰かの恩人ではないか
- おわりに エッセイという対話
紹介
現代社会におけるコミュニケーションの重要性と、言葉の力について考察します。葉が持つ影響力と、それによって生まれる対人関係の日常での思いを掘り下げていくエッセイ集です。
うまく言葉にならないことや、理路整然としないことが、普通であると味方についてくれる本となっています。くよくよ悩んでしまっても良い、人に迷惑をかけても良い、そんなこと感じさせてくれる優しい文章で勇気をくれることでしょう。
理路整然が良いは思い込み
理路整然と話すほうがよく、何を言っているのかよくわからないし、協力したくてもできないと思っていたのです。
ただ、理路整然としゃべれない人と話していても、つまらないと感じたり、時間の無駄だと感じたり、いらいらするといったことは全くありません。それどころか、何時間話していても面白いのです。
医者の言葉理路整然としているものです。「潰瘍性大腸炎とは大腸に炎症が起きる病気である」こんな感じだと思います。けれど、患者として体験する潰瘍性大腸炎を説明しようとしたら、そんなにスッキリとしたものにはなりません。別物のようになった腸で生きていかなければならず、社会とのかかわり方まで変わってしまいます。
今、感じているにおい、これをどう書けばいいのでしょう。今、たべているものの味を言語化できるでしょうか。風景にしても、完全には描き切れません。
こうしてあげていってみると、言語化できないことだらけです。
行き止まりツアー
知り合いが突然、「彼女をつくりたい」と言い出しました。
彼は女友達が多く、イケメンで高学歴、趣味もよく、経済的にも恵まれた優しい男性です。にもかかわらず、彼は彼女を作ることに苦労しており、35歳を過ぎても結婚願望を実現できていません。
彼のブログには、行き止まりの道に迷い込むデートの記録が残っています。1度なら、微笑ましくもあるデートの内容ですが、目的地に向かう途中で予期せぬ行き止まりに何度も遭遇してしまうのです。
帰りの道でさすがにおかしいと思った彼女が「行き止まりじゃないよね」と尋ねると、「行き止まりだよ」とニッコリ返す彼。結局、駅についた彼女は夕食をキャンセルして帰ってしまいます。その後、彼のバイクに乗る女性はいなくなります。
私自身も、彼と似たような生活を送っていることがあります。好きな店に行き、好きなものを食べ、慣れ親しんだ風景に心地よさを感じることがあります。新しい道を選ばなくなったと感じるとき、彼のエピソードを思い出し、反省するのです。
迷惑をかける勇気
多くの人が「人に迷惑をかけてはいけない」という教えに従い、その結果として苦しんでいます。
私が宮古島に移住した時、このルールが宮古島行きの飛行機内で崩れ去るのを目の当たりにしました。羽田での搭乗時、荷物を棚に入れるのに手間取ると迷惑がられがちですが、宮古島への飛行機では、荷物をゆっくりと棚に置いても誰も気に留めません。
宮古島では、人との待ち合わせで1時間遅れても謝罪されることはありません。隣のおばあさんが蛍光灯の交換を頼んでくれたら、喜んでそれを引き受けます。その結果、時には予定に遅れることもあります。
診療所では、車椅子の患者さんが来院します。行きは知人が送ってくれますが、帰りは待合室にいた別の誰かが嫌な顔一つせずに送ってくれます。
宮古島でのこれらの体験は、人に迷惑をかけることを極端に恐れる必要はないことを示しています。「お互いに迷惑をかけ合うことは自然なこと」という考えが、社会をより生きやすく、温かな場所にしているのです。
生きている人間だけでは
私たちは、亡くなった人々の思いや意見を聞くことができません。この事実が私をいつも悩ませます。
生きている人々は、まだ一度も死んだことがない、いわば選ばれし幸運な存在です。なぜなら、人間は驚くほど簡単に命を落とすからです。例えば、道路に少し横たわるだけで、車に轢かれ死んでしまうこともあります。このような理不尽さに、時には驚かされます。
生きているということは、そのように死にやすい人間の中での幸運です。
しかし、この幸運な人々だけが物事を決めていくのは、何とも危ういと思いませんか?宝くじに当たった人々だけがマネープランを立てるようなものです。