Invention and Innovation/著者:バーツラフ・シュミル

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書籍情報

タイトル

Invention and Innovation

_歴史に学ぶ「未来」の作り方

発刊 2024年3月20日

ISBN 978-4-309-22914-0

総ページ数 257p

著者

バーツラフ・シュミル

カナダのマニトバ大学特別名誉教授。カナダ王立協会フェロー。
エネルギー、環境、人口、食糧、技術革新史、リスク評価、公共政策などの領域で学際的研究に取り組んでいます。

出版

河出書房新社

もくじ

  • 第1章 発明(インベンション)とイノベーション―その長い歴史と現代の狂騒
    • イノベーションとはなにか――その失敗と成功
    • イノベーションは加速化している?
    • 「失敗したイノベーション」の三つのカテゴリー
    • 過去を振り返る
  • 第2章 歓迎されていたのに、迷惑な存在になった発明
    • 有鉛ガソリン
    • エンジン内に残された問題
    • いちばん手っ取り早い解決策
    • 不正確な名称
    • 毒性をめぐる議論
    • 廃止への道
    • 避けられたはずの悲劇
    • DDT
    • 5億人の命を救った化学物質
    • 悪影響の初報告
    • 『沈黙の春』の衝撃
    • 使用禁止の決定をめぐる議論
    • マラリア対策における役割
    • 初期の成功が災いした発明
    • クロロフルオロカーボン類(フロンガス)
    • 「無毒」で「不燃」の冷媒
    • 「いかなる意味でも危険はない」
    • 国際協定を結ぶ
    • 1920年代後半の状況に逆戻り
    • まったく予測不可能な失敗
  • 第3章 主流となるはずだったのに、当てがはずれた発明
    • 飛行船
    • 次世代の期待の星
    • 大戦中の軍事利用
    • 航空史上初の快挙
    • 突如として迎えた終わり
    • 軍用飛行船の復活
    • 消えた商用活用の夢
    • 復活と消滅を繰り返す夢
    • 核分裂反応を利用した原子力発電
    • なぜアメリカは原子力発電所を建設することにしたのか
    • 石炭火力よりも「安い」発電
    • 第二次原子力時代が訪れるという期待
    • 実現しなかった夢とその代償
    • 言い訳はできない
    • 成功した失敗
    • 超音速飛行(スーパーソニック・フライト)
    • 超音速飛行への誤解
    • なぜアメリカの超音速機開発は頓挫したのか
    • 〈コンコルド〉の教訓
    • アメリカのスタートアップによる新たな夢
  • 第4章 待ちわびているのに、いまだに実現されない発明
    • ハイパーループ――真空(に近い)空間で移動する高速輸送システム
    • 200年以上前からあるコンセプト
    • 磁気浮上式鉄道のアイデア
    • 高速輸送システムの新たな商業プロジェクト
    • 課題はいまなお解決していない
    • 窒素固定作物
    • 「緑の革命」を起こした発明
    • 利点の多い発明にも欠点はある
    • マメ科植物のような能力を穀類に
    • 三つの方法
    • あとどのくらい時間がかかるかは答えられない
    • 制御核融合
    • 商用化への道筋
    • 注目すべき実験
    • マスメディア報道の誤り
    • 実際どこまで進んでいるのか
    • 常温核融合は科学か
  • 第5章 テクノロジー楽観主義、誇大な謳い文句、現実的な期待
    • 「ブレイクスルー」ではない「ブレイクスルー」の数々
    • テラフォーミングからブレイン・コンピュータ・インターフェースまで
    • 新薬開発、長距離航空輸送、AI
    • 「加速化するイノベーション」という根拠のない説
    • 急速な指数関数的成長
    • 低い指数関数的成長
    • 現代文明の基盤を築いた10年間
    • 私たちがもっとも必要とするもの
    • 「がんとの戦争」
    • 地球規模での脱炭素化
    • もっとも発明が必要とされている分野はどこか
  • 訳者あとがき

廃止への道

 アメリカの大都市では光学化スモッグが繰り返し発生していました。

 光学化スモッグとは、液体燃料の精製・供給・燃焼により排出される一酸化炭素、窒素酸化物、炭化水素などが大気中で複雑な反応を起こして生じる大気汚染現象です。1940年にロサンゼルスで確認され、1970年にアメリカの大気浄化法により規制されます。

 1973年に環境保護庁は、具体的に自動車排ガスの削減と全規格のガソリンから段階的に鉛を除去することを義務づけました。

 ガソリンには白金が使われており、排ガスに含まれる鉛によって被毒劣化が著しかったのです。そのため、無鉛ガソリンで利用できる触媒コンバータの開発にはずみがつきました。

 1985年の段階では63%の無鉛ガソリンの普及率しかありませんでしたが、1991年には95%にまでなります。

 それから今までの間に鉛の代わりになる多数の触媒が禁止されて、健康への悪影響が確認されていないバイオエタノールを10%混合したガソリン燃料が主流となっているのです。

原子力発電の低下

 2020年、世界では443基の原子力が稼働しており、その数は30年前と比べて約6%増えただけで、発電量も約2500テラワット時と3割ほどの増加に留まっています。

 各国の動向をみても、後退が常態化しています。ヨーロッパでは原子力発電が全体の認証を得ていません。デンマーク、ギリシャ、アイルランド、ノルウェー、ポルトガルでは原子力発電所を1基も新規建設していないのです。

 ドイツ、スウェーデンでも原子力発電所の早期廃止を決めています。原子力発電でもっとも成功をおさめた国でさえ後退をはじめているのです。

 カナダ、中国、チェコ、ロシア、韓国、アメリカといった国が小型モジュール炉に関心を示しています。オクロ社は従来の大型原子炉の使用済み燃料を利用して、電力出力が1.5メガワットのマイクロ炉の建設を計画中とのことです。同社のウェブサイトには「グリーン」な印象を与えるような雰囲気をしてます。

 安全な稼働が確認されて、将来の商用化が築けるのかに注視しなければなりません。いまのところ、数十年にわたる原子炉建設計画に関して具体的かつ詳細なスケジュールを発表しているような、確約をしている国はないのです。

高速輸送技術の課題

 高速輸送技術についての課題はいまなお解決できません。

 チューブやポッドの製造に必要な材料や技術などわかっていません。内圧を真空に近いレベルまで下げる方法も思いついていないのです。長距離を安全に推進させるテクニックも不明です。

 イーロン・マスク自身がSF小説好きで、ユーモアと侮辱を込めてハイパールーフの地下建設の承認を取ったとXにポストすることがありました。しかし、解決しなければならない問題が多々未解決です。

 今のところ、減圧による大事故、チューブ内での熱膨張、50度近い温度差の調節など、安全に運用することが不可能だとされています。

 チューブ内高速旅行を楽しみにしているとしたら、健康を心掛けて長生きするしかなさそうです。

AIの現実的な期待

 AIに関する記事ほどお粗末なものはないでしょう。

 カルフォルニア大学バークレー校の世界屈指のAI研究者マイケル・I・ジョーダンがだした結論では、人間と同程度の能力を仕事や作業で発揮したり、単純なレベルのパターン認識において、現実社会の人間の脳の代わりを果たすうえでも、AIはまだ力不足だということです。

 ニューラルネットワークとは、人間の脳内の神経細胞のネットワーク構造に似せてつくった数理モデルで、シンプルな処理を相互に多層で接続されています。訓練データなどの分析や学習モデルなどで利用されているのです。

 なによりも、不確定性の定量化が苦手で常識が欠如しています。意外なことに、重要な過去のことを忘れてしまう破局的忘却性や、高校生が解ける数学の問題に解答できないといった弱点があるのです。

 一方で自律型兵器などの登場で紛争の予想が困難になったりするほど、AIは「非常に役立つ」ものであり、私たちの能力を増幅・最適化してくれます。

 現時点でのAIは、簡単に確認できる事実を拠り所にしているが、発明において広範かつ急速な指数関数的成長は見られないと、私の結論を支持すべきでしょう。

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