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目次
書籍情報
温暖化に負けない生き物たち
気候変動を生き抜くしたたかな戦略
発刊 2024年3月26日
ISBN 978-4-8269-0257-1
総ページ数 318p
ソーア・ハンソン
保全生物学者。グッゲンハイム財団フェロー、スウィッツァー財団環境研究フェロー。
白揚社
- 序章 今さらながら
- 第1部 元凶(気候変動と二酸化炭素)
- 第1章 万物は流転する
- 第2章 有害な空気
- 第2部 難題(とチャンス)
- 第3章 タイミングのミスマッチ
- 第4章 暑すぎる問題
- 第5章 近所づきあいの問題
- 第6章 なくてはならぬ必需品
- 第3部 応答
- 第7章 移動する
- 第8章 適応する
- 第9章 進化する
- 第10章 避難する
- 第4部 結果
- 第11章 限界を超える
- 第12章 予期せぬ出来事
- 第13章 過去は過去、今は今
- 終章 できることは何でも
有害な空気
冷蔵庫の一番下の棚にニンジンとセロリを入れた袋があり、その奥に自家製のピクルスを入れた2リットル瓶がありました。酸っぱいだけでなく酵母臭もしていて、細菌のほかに真菌も加わって分解していたようです。
このピクルスは昔に捨てておくべきでしたが、今回っだけは始末しなかったことが幸いしました。
瓶が開いた口にマッチを近付けると、燃焼に必要な酸素がないので、マッチの炎は消えてしまします。消えたマッチの先から出た煙は、気体に取り込まれて瓶に沿って下へ流れていきます。
18世紀の自然哲学者ジョセフ・プリーストリーが実証した二酸化炭素の存在実験を、身近な冷蔵庫から実施することができました。
暑すぎる問題
現在、地球は温暖化しているので、熱ストレスや生物学でいう「生育限界」となる温度の影響に関心が集まっています。
人間には我慢できる温度ですが、最高限界温度が32℃をだいぶ下回るサンショウウオやニシンのような生き物には厳しい温度です。
哺乳類や鳥類のような「内温」性の動物は体温調節の能力が高く、魚や両生類といった「外温」性の動物は周囲の暖かさに依存しています。
多様性に生きる生き物は、さまざまな生息環境に対応して繁栄してきました。つまり、極端な気温に対処するのが難しいのは、すでに過酷な環境で暮らしてる生物だということらしいのです。気候変動に対する警鐘を鳴らした生物の1つが、砂漠を象徴する生き物でした。
ハリトカゲやその近縁種は、日光浴をして体温を調整しています。朝方の寒い日に寝そべっているのはそのためです。気温が温暖化すると、トカゲは日陰で過ごす時間が増えます。すると、トカゲにとって繁殖行動などの時間が奪われ、拘束時間が増えるのです。
避難する
ブリストル・クリフでは、冷却効果により、岩や周囲の地表が冷えています。岩棚に沿って、樹木の育成に適した場所まで下降気流が送り込まれるからです。ある一角にはスイミングプールくらいの大きさの寒冷生息地が出来上がります。その内側では、時代が異なる場違いな植物が生えているのです。
はるか昔まで時計の針を戻せば、ニューイングランドのどの地域でも寒冷な空気に満ちていたはずです。氷床が後退すると、最初にツンドラの植物が定着し、寒帯林が続いて、2500年以上にわたり地上を覆いました。気候の温暖化が進み、こうした針葉樹は徐々に北方へ移動して、広葉樹に取って代ったのです。つまり針葉樹のほとんどが移動しました。
予期せぬ出来事
数学者が予想通りの変化を示さない場合、非線形のように関係性を表します。生物学の文献にもこの用語が頻繁に登場するようになりました。SPRUCE計画の高層湿原の樹木に「偽りの春」が及ぼした影響がその良い例です。
温暖化に対する植物の一般的な応答の1つは、春の開花が早まる現象です。雨量の変化や気温の変化、標高や法学といった要因によって、簡単に途絶えたり、逆転したりします。
マルハナバチは食物にしている春の花が十分に咲いていないと、好みの植物の葉を噛んで穴をあけ、開花を促すことがあります。植物はこうした物理的な損傷でストレスを受けると、繁殖できる状態になるらしく、気候に関わらず、開花時期が一ヶ月も早まってしまうのです。
気候変動生物学では、驚くような事態が起きた場合、見逃していたり知らなかったりした関係がその一因となっているのは間違いありません。また、その現象が遠く離れた場所でバタフライ効果を生むことがあります。