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目次
書籍情報
計測の科学
人類が生み出した福音と厄災
発刊 2024年1月10日
ISBN 978-4-8067-1661-7
総ページ数380p
ジェームズ・ヴィンセント
ロンドン出身のジャーナリスト兼ライター。
築地書館株式会社
- はじめに
- キログラムの定義見直し
- 計測するのは人類だけ
- 権威を増す計測
- 不均衡の解消
- 偽りの客観性
- 第1章 文明の発展と計測
- ナイルの豊かさを計測する
- 文字と数と計測の発明
- 神の意志と計測
- 最初の単位
- 第2章 融通の利く計測
- 商人の計測、王の計測
- 計測の融通性
- 信仰と計測
- 地域独自の計測法
- 第3章 世界を測る
- 計測と近世初期の精神
- 古代ギリシャ人と数字
- アリストテレスとオックスフォードの計算者たち
- 芸術、音楽、時間を計測する
- 時計仕掛けの宇宙
- 第4章 計測基準を定める
- 世界を解剖する
- 温度をとらえる
- 不動点を決める
- 絶対零度
- エネルギーとエントロピー
- 第5章 メートル革命勃発
- 公文書館のメートルとキログラム
- 地球は横長の楕円形
- イデオロギーと抽象化
- 一日は十時間
- 第6章 世界じゅうを区切る
- 四角に区切られた大平原
- 境界を検分する
- 西に広がる四角い区画
- 先住民の破滅
- 地図と領土
- 第7章 生と死を測定する
- 死亡統計表
- 統計学の胎動
- 平均人の誕生
- 平均値と異常値
- 優生学とIQ
- 第8章 メートル法に抗う人々
- 計測自警団
- ナショナリズムと国際主義
- ピラミッドは万国共通の測定単位
- 道標を襲撃する
- 第9章 すべての人たちのための計測
- 役目を終えたキログラム原器
- 計測学者、チャールズ・サンダース・パース
- 計測精度の高まり
- 光でメートルを定義する
- マイケルソンとモーリーの失敗
- 新定義の誕生
- 第10章 管理される日常
- 規格化されたピーナッツバター
- 大量生産、戦死者数
- 自己の定量化
- 科学的根拠のない一万歩
- おわりに 頭のなかの測定器
はじめに
最初計測の重要性を認識したのは、2018年にジャーナリストとして、キログラムの定義見直しに関する記事を書いたのがきっかけです。
1キログラムは18世紀以来、特定の金属塊の重さとして定義されてきました。フランスの公文書館の地下で容器に入れて厳重に保管されています。
この単一の基準にキログラムは対応できなくなり、科学者は定義の見直しを決断し、自然界の基本定数を使うことにしたのです。
実は、キログラム以外の現存する他の計測単位は密かに定義を見直されていました。
キログラムはなぜキログラムなのか。インチはなぜインチなのでしょう。
世界を解剖する
大学で最も古い建物であるグスタビアヌム博物館の屋根には、巨大な円屋根のドームが作り付けられており、リンドボムと私はその真下にある劇場型の講義室、いわゆる解剖劇場に立っています。
1660年代に建てられたもので、自然光をうまくとりいれているのです。心地よい秋の日の午前中、処刑された罪人たちの遺体が医学生のためにこの場所で切り開かれていました。急勾配の階段状の木のベンチから解剖の様子を眺めていた学生たちは、生きている人間を救う方法を学んだのです。
この解剖劇場の古い歴史と圧巻の光景は簡単に無視できません。4世紀近くが経過しても、ウプラサ大学の学生は光が差し込む劇場に集まって、神の創造物を解剖する方法を学びます。
スウェーデン史では、17世紀から18世紀にかけて、自然界の秩序をポルターガイスト現象で説明するような学問は廃れ、代わりに観察や実験や計測に基づく定性的理論が脚光を浴びていました。
区切られた土地
土地測量は単なる役所仕事だと思うかもしれないが、近代国家の発展に重要な役割を果たします。政治学者のジェームズ・C・スコットは1998年の著書『Seeing Like a State』のなかで次のように論じています。
さまざまな便利な道具を利用してきました。こうした道具は形も応用する方法もさまざまに異なりますが、いくつかの特徴を共有しています。世界の規格化や単純化を進め、まるで生物のように発達してきた社会を作り替え、行政がまとめやすい形に整理することを目標にしてきたのです。
国勢調査は、人口の規模と構成を把握するために使われます。土地測量と資産台帳からは、どこに住んで何を所有しているか確認され記録されます。日常生活の習慣にも手を付けて、姿の見えない官僚が利益を得られるように調整するのも可能です。
操作がスムーズになったことで、公衆衛生計画、福祉プログラム、政治的監視や抑圧など、まったく新しい形の行動が可能になりました。
計測自警団
通りの反対側に立っている道標は、注意深く監視されるような存在とは思えません。実際、イギリス南西部のタックステッドという町をたまたま歩き回り、歴史的に有名な風車までの距離が何メートルなのか知りたい人でもないかぎり、あまり興味は湧かないはずです。
ARMは、イギリスで「強制的に押し付けられたメートル法」に反発し、メートル法で表示された看板を生け垣に捨てり、ペンキやステッカーを使って表記を修整しました。
メートル法に変えたのは、帝国測定表記にこだわりすぎると、世界基準から外れて経済発展が遅れることを懸念していたため、あらかじめ国が決定していたことでした。かなりの抵抗を受けて、態度を軟化させてきたものの、計測表記に関しての不満が解消されません。実際に、EUが2007年に好きな時にいつでも帝国単位を使っても構わないとイギリスに伝えているほどです。