日本製鉄の転生/著者:上阪欣史

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書籍情報

タイトル

日本製鉄の転生 巨艦はいかに蘇ったか

発刊 2024年1月22日

ISBN 978-4-296-20423-6

総ページ数 287p

著者

上阪欣史

日経ビジネス副編集長。
機械、素材、エネルギー、商社などの企業取材に携わる。

出版

日経BP

もくじ

  • はじめに
  • 第1章 自己否定から始まった改革 5つの高炉削減、32ライン休止の衝撃
    • どんぞこからの船出
    • 退路を断った「2年以内のV字回復」宣言
    • 呉地区全面閉鎖の衝撃
    • 経営企画担当副社長に異例の技術出身者
    • 労組にとって「暗黒の金曜日」に
  • 第2章 「値上げなくして供給なし」 大口顧客と決死の価格交渉
    • 染み付いていた負け犬体質
    • 価格交渉は「孫子の兵法」で正面突破
    • 製鉄所を6エリアに集約 V字回復を達成
  • 第3章 異例のスピードで決断 インドで過去最大M&A
    • 転がり込んだ千載一遇のチャンス
    • 最優先はスピード「ウルトラC」繰り返す
    • 激しく抵抗する創業家、泥沼の訴訟合戦に
    • ついに買収承認 海外最大の「一貫製鉄所」に
  • 第4章 動き出すグローバル3.0 「鉄は国家なり」の請負人に
    • もう日本では見られない? 新しい高炉をインドに
    • 右手で握手し左手で殴り合う
    • USスチール2兆円買収も、世界各地で一貫生産
    • あえて傍流を選んだ男の執念
    • 海外と日本の生産量が逆転する日
    • 【コラム】インド発 踊る製鉄所見聞録
  • 第5章 国内に巨額投資の覚悟 高級鋼で勝ち抜く「方程式」
    • 40年ぶりのライン新設、「質の転換」に巨額投資
    • 「ギガキャスト」何するものぞ チャンスは我にあり
    • 【コラム】石油会社が認める高級鋼「油井管」の謎
  • 第6章 脱炭素の「悪玉」論を払拭せよ 鉄づくりを抜本改革
    • コークスの代わりに水素、「じゃじゃ馬」を飼いならせ
    • 遠く海の向こうまで 試験路を求めて
    • かなぐり捨てる「高炉」の看板
    • GX敗戦の危機 広がる欧州との支援の差
  • 第7章 「高炉を止めるな!」 八幡の防人が挑む改革後の難題
    • 構造改革の副作用、問われるレジリエンス
    • トラブル現象が呼んだ経験不足
    • 縦割りを排して全国の高炉マンが大集結
  • 第8章 原料戦線異状あり 資源会社に巨額出資
    • 脱炭素への切符、高品質な原料を我が手に
    • 固定費が3割、変動費が7割の時代に
    • 【コラム】「鉄人」列伝 新風を吹き込め
  • 第9章 橋本英二という男 野性と理性の間に
    • ものづくりに魅せられ入社 薄板営業で実績
    • アジア市場のことは橋本に効け
    • 「ぶれない」リーダーの肖像
    • 【インタビュー】日本製鉄社長 橋本英二氏
  • おわりに

はじめに

 日本製鉄は鉄の国内生産シェアで約半分を占める日本最大手です。

 なかなか改革が進まない「伝統的な日本の大企業」に見えていましたが、製鉄所の象徴である「高炉」の廃止を決定し、海外事業を拡大するために巨額投資に打って出ました。

 そして2023年12月には米鉄大手USスチールを買収し、米国に値を下ろそうとしています。

 日本製鉄が変身を遂げたのだから、その変化の過程を探ることで日本の大企業が変わるヒントが見えてくるに違いありません。

2年以内のV字回復

 「このままキャッシュアウトが続けば日本製鉄に3年目はない」として、橋本は「2年以内のV字回復」をかかげました。

 「マネジメント力」と「論理と数字がすべて」と訓示し、鬼になる覚悟だったのです。

 橋本は第一線に立つメンバーを少数精鋭に絞りました。初年度に戦陣の「飛車」「角」として置かれたのは、経営企画の右田彰雄と財務の宮本勝弘の2人の副社長です。年功序列を重んじる日本製鉄からすると入れのスピード抜擢でした。

千載一遇のチャンス

 「私たちは相性がいい。買収は必ず成功するはずだ」

 画面の向こうにいたのは、鋼鉄世界第2位の欧州アルセロール・ミタルのラクシュミ・ミタル最高経営責任者(CEO)。世界の「鋼鉄王」です。

 両首脳はインドの鋼鉄大手、エッサール・スチールを共同で買収することで基本合意しました。見積もった共同買収額は7000億円を上回る規模です。

 4か月前、インドの倒産・破産法に基づく対象企業として公表された鋼鉄5社の1社として、エッサールの名前が並んでいました。そして、新法で再生手続きが慢性化していたものが、法的に180~270日と区切りを付けられたことで実務から解放されて再建への道が描きやすくなっていたのです。「時間をかけずにインドにくさびを打ち込める」と考え、すぐさまエッサールの資産査定の乗り出しました。

40年ぶりのライン新設

 社長の橋本英二は製鉄設備を統廃合する「守り」の構造改革を遂行する中、「攻め」の機会が熟すのを待っていました。

 2019年度から節目となる1億トンを割り込み続けており、数量面での劇的な回復は望めません。

 数量に増加に頼らず、トン当たり利益高い単価への転換を方針に掲げました。生き残りをかけた資金を巡って、金に糸目をつけるつもりもなかったようです。

 赤字状態で、そんな大それた投資があるか、懐疑論も上がっていました。それでもV字回復の道のりが見えるや否や、「今、布石を打たなければ日本製鉄に未来はない」と決断したのです。

転ばぬ先の杖

 脱炭素が叫ばれる中、石炭の鉱山会社に出資するのは時代に逆行しているようにみえますが、日本製鉄の考えは違います。

 カーボンニュートラルな鋼鉄生産プロセスでは高品質な原料炭が必要になると考えているのです。

 日本製鉄は二酸化炭素をほぼ排出しない「水素還元製鉄」を40年代に実用化することを目指しています。しかし、鉄鉱石に含まれる酸素を取り除く「還元」に水素を使うと、周囲の熱エネルギーを奪う吸熱反応が起きます。この影響で高炉内の温度が下がってしまわないような技術を開発しなければなりません。

 還元の工程で水素のみでまかなうのは難しいので、高炉内温度を維持するためには石炭がどうしても必要なのです。

 この水素還元で使う石炭に適しているのが、エルクバレー鉱山の石炭でした。不純物が少ないので燃焼効率が高く、硫黄が少ないので、扱いやすいのです。脱炭素競争で勝ち抜こうとする日本製鉄にとって、この鉱山は「金脈」となっています。

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