洞窟壁画考/著者:五十嵐ジャンヌ

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※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

書籍情報

タイトル

洞窟壁画考

発刊 2023年10月25日

ISBN 978-4-7917-7568-2

総ページ数 466p

著者

五十嵐ジャンヌ

先史学博士。
東京藝術大学、慶應義塾大学、立教大学、実践女子大学、文化学園大学の非常勤講師。

出版

青土社

もくじ

  • はじめに
  • 第1部 洞窟に何を描いたのか_描かれたモチーフの分類
    • 氷河期に絶滅した動物
      • ケナガマンモス
      • ホラアナライオン
      • ケサイ
      • ホラアナグマ
      • オオツノジカ
    • 歴史時代に絶滅した動物や現存する動物
      • ウマ
      • バイソン
      • オーロックス
      • トナカイ
      • シカ
      • アイベックス
    • 人間らしき画像、半獣半人像、混成動物像
    • 手形
    • 記号_幾何学図形
    • まとめ
    • コラム 旧石器時代と中石器時代、新石器時代の美術の主題やモチーフのあつかい

はじめに

 壁画といえば高松塚やキトラの古墳壁画や装飾古墳の壁画を思い起こすでしょう。

 大学で講義をすると、学生たちが洞窟壁画についてあまりしらないことを実感します。洞窟壁画はいつ、どこでだれが、何を、どうやって、なぜ描いたのか、といった具合に、毎回テーマを絞って洞窟壁画研究について詳しく紹介しています。

 洞窟壁画の学問は近代以降の学問や科学技術の進展とともに、様々な仮説が立てられてきました。その仮説の前提は日本ではあまりしられていません。本書の意義は、慎重な意見や方法論の背景にあるものを日本の読者に知ってもらうことにあります。

手形

 フランスのレ・コンバレル洞窟(ドルドーニュ県)の奥の曲がり角に幼い子どもの手形があります。くっきりとした手形からは、子どもが自ら残したとは考えられません。

 一般公開されている洞窟遺跡では、ペシュ=メルル洞窟(ロット県)の壁画にくっきりとみえる大人の手形が意味ありげです。

 洞窟の中で旧石器時代の手形が発見されて以来、地理的に民族が行う行為との類似性などが考えられるようになりました。

 そのなかで指が欠損したような手形については、その意味、動機が分析されています。情報を伝達するためのサインという解釈や病理学的研究もあるようです。

顔料の調達

 絵具の顔料や添加物の調達はどうしていたのでしょうか。

 黒い顔料である酸化マンガン鉱物は、洞窟内に天然の状態で存在している場合があるのです。けれど、カリ長石、花崗岩、片麻岩、赤鉄鉱などは、洞窟入口付近などの生活拠点で顔料が発見されることがあります。

 つまり、明るい場所で作られた、あるいは想像したと考えられるので、思い付きで描かれたものは少ないのです。

 焼いて色味を調整した顔料を使用したり、天然の赤鉄鉱にこだわる場合もあります。あえて遠くから持ち込まれた顔料を使用することもあるのです。物々交換で手に入れたのか、材料業者がいたのか、判断が難しいところがあります。

 いずれにせよ、壁画作成にグループが組まれていて、受け継がれた経験が壁画に反映されているのでしょう。

放射性炭素年代測定法

 壁画の技法には色彩画、線刻画、浮き彫り、彫刻がありますが、「直接的」に放射性炭素年代測定法が適用できるのは一部の色彩画のみです。色彩画でも赤ではなく黒に限られます。しかも酸化マンガンではなく、木炭や骨炭などの炭素を含む物質を含んでいれば、加速器を使用することで測定できるのです。

 ロシアのウラル湾脈にあるイグナチエフ洞窟には黒い線描画があり、洞窟内にあった木炭から旧石器時代の人々が出入りしていたことが知られています。なので旧石器時代のものではないかといわれていました。しかし、放射性炭素年代によって、紀元前6390年から6080年代であることがわかりました。8000年前より後の時期に描かれたことを示しているので、ヨーロッパの後記旧石器時代よりもずっと後の時代です。

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