秘境駅への旅/著者:吉永洋一

※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

書籍情報

タイトル

交通新聞社新書173

秘境駅への旅

そこは、どんな場所なのか

発刊 2023年9月15日

ISBN 978-4-330-06123-8

総ページ数 271p

著者

吉永陽一

建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ転職し、その後フリーランスとして空撮のキャリアを積む。
長年鉄道空撮に取り組み、個展もだしました。

出版

交通新聞社

もくじ

  • 秘境駅の風景
  • 序章 そもそも秘境駅とは何か
  • 1章 秘境中の秘境駅を訪ねる
    • 物置接待室の聖地 糠南駅
    • トンネルを出たらすぐ 白井海岸駅
    • 山深い県境の駅 男鹿高原駅
    • ケーブルカーの秘境駅 霞ヶ丘駅
    • スイッチバック構造が残る 新改駅
    • 実質、早朝2本のみの停車 宗太郎駅
    • コラム1 今から思えば秘境駅 旧深名線北母子里駅での駅寝
  • 2章 特徴ある秘境駅を訪ねる
    • カッコいい駅名 毘沙門駅
    • 2か所の県庁名が冠された 福島高松駅
    • 山間の要衝だった 越後落合駅
    • 海に近い 串駅
    • 再開通した 会津越川駅
    • かつてのスイッチバック 大沢駅
    • 自己申告制の途中駅 ほうらい丘駅ともたて山駅
    • これぞ終端 長門本山駅
    • 海外の秘境駅① スコットランド オルトナブリアック駅
    • 海外の秘境駅② タイ王国 ワンイェン駅
    • 海外の秘境駅③ 台湾 三貂嶺站&枋山站
    • コラム2 秘境駅を空撮する
  • 3章 観光地化する秘境駅を訪ねる
    • 〝日本一の秘境駅〟になった 小幌駅
    • 車での往来はできない 坪尻駅
    • 観光化の試金石たる 筒石駅
    • コア層の尾盛駅と、ライト層の奥大井湖上駅
    • ご結婚ブームで注目 小和田駅
    • コラム3 廃止になった秘境駅 峠下駅&真布駅
  • 4章 <対談>秘境駅ランキング生みの親・牛山孝信×著者・吉永陽一
  • 5章 今後の秘境駅はどうなる
  • あとがき
  • 参考経路

早朝2本のみの停車 宗太郎駅

 日豊本線は九州の東側を結ぶ幹線であり、地域輸送の普通列車から都市間連絡の特急列車が行き交います。

 宗太郎駅のある佐伯駅~延岡駅間を走破する列車はほぼ特急のみの運行なのです。普通列車は早朝の6時台に上下線各1本ずつと、上り列車が20:07延岡発のみの、合計3本しか走りません。

 宗太郎駅は国道10号線が近くにあり、集落もありますが、この駅が秘境と呼ばれる理由は、ホームが山中にへばりついてるようなロケーションにつきます。

 早朝6時から延岡駅で列車をまち、特急列車に使われる787系の普通列車に乗り宗太郎駅に到着します。この駅に降り立った人は他に若い男性が2名おられました。旅人です。

 集落を見ると家は数えるほどですが、集落にあった信号場が駅へ昇格した悲願を表す石碑が立てられています。

 ホームの街アイシスには丸石にメッセージや絵が描かれてベンチにキレイに並んできます。微笑ましい絵やストレートなメッセージが記された丸石は、どこか愛嬌があって可愛らしいのです。

 集落の玄関駅は停車本数が減っています。過疎化を表しているかのようです。一方で、その静かな佇まいが秘境駅として注目を浴び、私のように遠方からふらっと訪れるものがいます。

海に近い 串駅

 予讃線の向井原駅~伊予大洲駅間は、中央構造線の山間部を避け伊予灘に面したルートと、内陸の山間部をショートカットする2つのルートに分かれます。

 串駅の出入口は下灘寄りの一か所のみです。狭いスロープを降りると斜面に3軒ほど民家があります。その急坂になっている小道を上ると駅を見下ろすことができ、海を一望できるのです。

 紺碧の伊予灘の絶景が視界に広がり、潮風と心地よい波の音が穏やかな気持ちにさせてくれます。

 ピクニックしたい気分になるけれど、郵便局のバイクが走っていたりと、静かな場所でも生活空間があります。ぐっとこらえましょう。

 大変便利なことに待合室内にはデジタル掲示板があります。列車の位置情報と遅延情報が表示されていました。無人駅は情報が少ないのが常でしたが、最近は待合室にデジタルサイネージが普及し、令和の一部が整っています。

観光化の試金石たる 筒石駅

 モグラ駅という言葉あります。トンネルの中にある駅で、地下鉄駅とは別物です。

 筒石駅は上越市と糸魚川市の境界付近にある、日本海沿岸部より少々内陸を穿つ長大トンネル「頸城トンネル」内にあります。

 筒石駅は国鉄の新線遺跡計画では廃駅予定とされていましたが、地元の反対によってトンネル内に移転して再出発することになったのです。2019年からは利用者数の減少により、無人駅となっています。

 筒石駅で下車すると、人はすれ違えるが狭く、蛍光灯照明で浮かび上がる黒いコンクリートがみえます。暗い中で流れ落ちてる水の音が聞こえてきます。地下水が絶え間なく流れていて、川でもあるかの水量です。

 アルミのドアを開けると、一気に風圧がかかります。その先はトンネル空間の待合室となっていて、長椅子が置かれています。

 224段の階段を登り駅前へ出てみると、駅舎はプレハブ然としたブロック造りの簡素な平屋建てです。駅名が掲示されていなければ、工事現場の事務所に見えてしまいます。

 駅前の小道を歩くと、民家の裏手に出ます。看板がなければ、生活道路から分岐する小道が、実は駅へ続く道だと気づく人はいません。

 そばには、北陸自動車道の立派な橋梁が視界に入ります。この場所は鉄道も道路も幹線が通っているのですが、鉄道を地中になるので存在感がありません。

今後の秘境駅

 秘境駅は今日も誰が下りるわけでもなく、列車の到着を待ち、乗務員はドアを開けて誰もいないのを確認して閉めます。

 時々、ポツポツと利用者が訪れます。決して利用者は0人ではありません。

 なぜ秘境駅になったのかを知るために、私はその駅で降ります。

 いつまで残っていられるだろうか。

 いつかは終わるそのときまで訪れて考察し、足跡を残し、駅の存在を少しでも世に伝えていくのが、私の旅です。

あとがき

 旅をつづけながら、秘境駅について思いをはせていきます。色々な意見や人と出会って秘境駅の将来について答えを見つけていくものです。

 この本をきっかけに秘境駅に興味を覚え、風前の灯の駅へ訪れてくれたら、私は書いてよかったと胸をなでおろすことができるでしょう。

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