いちばんやさしい地経学の本/著者:沢辺有司

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書籍情報

タイトル

いちばんやさしい地形学の本

発刊 2023年9月21日

ISBN 978-4-8013-0679-0

総ページ数 255p

著者

沢辺有司

フリーライター。在学中、アート・映画への哲学・思想的なアプローチを学ぶ。編集プロダクション勤務を経て渡仏。パリで思索し、アート、足袋、歴史、語学を中心に書籍、雑誌の執筆・編集に携わる。現:東京都在住。
『良い点だけで超わかる日本史』『地政学から見る日本の領土』(彩図社)、『はじめるフランス語』(学研プラス)、『地政学ボーイズ』(ヤングチャンピオン)などの著書がある。

出版

彩図社

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もくじ

  • はじめに
  • 第1章 「地経学」とは何か?
    • 【地経学とは「地政学×経済」】
      地政学的課題を経済で解決する
    • 【米中のグレート・ゲームがおきている】
      地政学の基本概念
    • 【武器は軍事力を背景とした経済政策】
      地経学で見る近現代史
    • 【経済的手段を「武器化」する】
      地経学の基本戦術
  • 第2章 中国の地経学
    • 【全領域での戦いがはじまっている】
      現代の戦争を予言した「超限戦」
    • 【M&A、産業スパイ、千人計画】
      先端技術を盗んで軍事力を高める
    • 【TikTok、Zoomから情報がもれている⁉】
      中国がめざすデジタル監視社会
    • 【リープフロッグ現象で世界覇権をねらう】
      中国式イノベーション
    • 【「一帯一路」で巨大経済圏をつくる】
      米ドル基軸を脅かすデジタル人民元
    • 【「台湾統一」の地経学的戦略】
      一国二制度とハイブリッド戦争
    • 【欧米は強制労働による製品を排除】
      人権問題というチョーク・ポイント
    • 【ロシア・中東との連携深まる】
      水・食糧・エネルギーの安全保障
  • 第3章 アメリカの地経学
    • 【最強軍事力に裏付けられた】
      ドル基軸通貨体制で世界覇権をにぎる
    • 【アメリカ優位の地政学的環境をつくる】
      兵器ビジネスで軍事産業を活性化
    • 【「貿易」を武器に地経学的圧力をかける】
      トランプの米中貿易戦争
    • 【人・モノ・お金の取引を断ち切る】
      対中デカップリング
    • 【中東の空白地帯で中国が台頭】
      シェール革命でエネルギー支配を狙う
  • 第4章 ロシアの地経学
    • 【軍事力ではなく経済力がカギ】
      エネルギーの武器化で「偉大なロシア」復活へ
    • 【電撃的にクリミアを併合した】
      軍事・非軍事融合のハイブリッド戦争
    • 【エネルギー・金融・半導体がターゲットに】
      ウクライナ侵攻後の対ロシア制裁
    • 【北極圏の資源・新航路開発をリード】
      「中国北極脅威論」と対峙するロシア
  • 第5章 世界の地経学
    • 【ITから製造業強化へ転換】
      グローバル・サウスのリーダー インドの地経学
    • 【中国の「一帯一路」構想と結びつく】
      脱石油依存経済へ サウジアラビアの地経学
    • 【原子力・移民受け入れで経済成長を支える】
      「自主独立」を貫くフランスの地経学
    • 【ランド・パワー中露依存のリスク高まる】
      EUの経済大国 ドイツの地経学
    • 【大英帝国再建へ インド太平洋地域へ向かう】
      EUを離脱したイギリスの地経学
    • 【米中対立に巻き込まれず経済的実利を追求】
      経済統合が進む東南アジアの地経学
    • 【対中輸出依存から脱却をはかる】
      半島に生まれた「島国」韓国の地経学
    • 【政治・経済・軍事の自立をはかる】
      「主体思想」を掲げる北朝鮮の地経学
  • 第6章 日本の地経学
    • 【対中デカップリングでアメリカと連携】
      中国の標的となる日本の先端技術
    • 【日本のブランドにバックドアが仕掛けられる⁉】
      危うい日本の情報セキュリティ
    • 【サプライチェーンの安全保障】
      重要物資の脱中国依存をめざす
    • 【中東依存とシー・レーンのリスク拡大】
      日本のエネルギー安全保障
    • 【日本の経済安全保障を担う法規制】
      中国の地経学的攻撃に対処する
  • おわりに
  • 主要参考文献

はじめに

 21世紀において、社会空間も「戦場」と解釈されます。

 ロシア軍の元参謀総長ヴァレリー・ゲラシモフは、21世紀においては「平和と戦争の間が曖昧な状態になる」と述べました。

 サイバー攻撃、M&A、グローバル人材争奪戦、SNSやメディアによる世論操作、ダイコク資本の土地買収、金融・通貨の勢力圏争い、インフラ投資と債務の罠、難民テロといった経済攻撃は、ときに軍事攻撃とかわりません。

 表面的に見えていない争いを、正確にとらえるツールとして地経学という新しい学問を活用します。各国の狙いや思惑、対立の構図、問題点などがよりクリアに見えてくるのではないでしょうか。

アメリカのシェール革命

 アメリカのシェール革命は、「21世紀の地政学的・地経学的革命」ともいわれています。

 オバマ政権下で日本向けシェールガスの輸出を解禁し、米国産原油の輸出をも解禁しました。オイルショックの起きた70年代から石油・ガスの輸出を制限したものが約40年ぶりに解除されたのです。ロシアのエネルギー輸出の影響力に抵抗する狙いがありました。

 2016年からパナマ運河が拡張され、LNGをアジア方面にLNGを輸出しやすくなったのも大きいです。今まで、スエズ運河やインド洋を渡っていたルートが改良されました。メキシコ湾から直に太平洋に出て、アジアへ向かうことができるようになっています。

 アメリカはエネルギーの自立を果たしたのです。そしてエネルギー支配を目指せます。

 トランプ政権は、石油・天然ガスを増産させるためにパイプラインを築きました。エネルギー関連の雇用を増やし、シェールガスの開発を進めたのです。規制を取り払うことで、パリ協定などの火力発電規制強化などの間接的な攻撃に対し、アメリカ国内の製造業の経営圧迫などの緩和を実現しました。

 再生エネルギーと化石燃料というスタンスで、アメリカの再生エネルギーの発電量は全体の2割を超えています(2021年)。

中国のデジタル・シルクロード

 中国版GPS、ファーウェイの5G、光ファイバー、AIといったものを、相手国の支配層が望めば監視機能付きで提供します。ポーランド、スロバキア、ルーマニア、チェコ、ブルガリアなどは中国の情報インフラ包囲網を築いています。「一帯一路」経済圏にデジタル人民元決済圏を広げるという構想があるのです。

 人民元が世界で人気がないのは、当時国家間のみだからです。他の国との貿易決済に使えません。かなり不便な通貨です。どうにかして、この不便を解消したいという野望が、ドル基軸体制崩しの働きかけとなっています。

 2021年4月のアリババ・グループ独占禁止法に違反したとして28億ドルの罰金を吹っ掛けた事件がありました。これは、アリババの企業インフラを使いたいというのが理由です。コントロール下において、デジタル人民元の普及を急ぎたいという狙いがあります。

 デジタル人民元決済圏がどれほど普及するのかは未知数です。通貨の流通情報という一番大事な個人情報が、国の権力が強い中国政府に筒抜けになるのがデジタル人民元となっています。監視し、経済を手中に収めて強力な手段を持ちたいと考えているのです。

東南アジアの地経学

 ASEANと中国は経済的連携を深めています。

 中国は、アメリカとの半導体取引の制限をうけているので、ベトナムやマレーシア、シンガポールに頼るのです。アメリカから追加関税をかけられる可能性のある中国企業は、すばやくベトナムなどに生産拠点を移して、追加関税を逃れています。

 中国の貿易・投資の拡大をASEANも警戒しています。南シナ海や一帯一路圏内が支配され、人権すら無くなる問題があることを承知しているのです。

 しかし、アメリカや日本などの自由主義陣営といっしょになり、中国に対抗するという発想はありません。1つの通貨が強くなることがないように、双方と貿易して良いとこをとっていこうとする考え方です。経済と安全を守るために、どちらかを選ぶのではなく、双方との貿易を促進し、投資などを呼び込む戦略を展開しています。

日本、脱中国

 まずは「半導体」です。

 日本政府は「先端半導体生産基盤整備基金」を新設し、2021年度補正予算で6170億円を計上しました。

 1番の目玉は、台湾TSMCがソニーグループやデンソーと共同で熊本に建設する半導体工場です。2024年に生産開始予定です。世界最先端というわけではありませんが、自動車などに搭載する需要が最も大きい半導体となっています。

 キオクシアが三重に建設する生産施設や、米マイクロンテクノロジーが広島に建設する生産施設への支援も決まっています。日本の有力日本企業が出資して次世代半導体の生産をめざす「ラピダス」への支援もきまっています。タピダスは2027年に量産化をめざしているようです。

 次は「バッテリー」です。

 日本はリチウムイオン電池の開発で世界をリードしてきました。しかし、現在はリチウムイオン電池の輸出国のトップは中国です。中国は国内でリチウム原料の生産と生成を行える強みを持っています。

 リチウム原料の生産は、オーストラリア、チリ、中国、アルゼンチンの4カ国にほとんど集中していて、これらの国の情勢によって供給が不安定化する恐れがあるのです。できるだけ調達先を分散する必要があります。2023年3月、日本とアメリカはEVバッテリーの材料となるリチウムなどの重要鉱物のサプライチェーンについて連携を強化するとして、新たに協定を締結しました。ここでも日米で中国に対抗する構図をとっているのです。

あとがき

 各国に共通する目標は国益を守ることです。国益を守るためには、他国に依存しないことが理想となっています。エネルギーにしても食料にしても、究極的には自給自足が理想であり、それが最大の防御です。他国への依存はチョーク・ポイントをつくることに他なりません。

 日本の課題は、経済安全保障でしょう。世界情勢、ショッキングなニュースに振り回されることなく、まずは足元の安全を確かめたいものです。

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