発売日 2023年8月25日
ページ数 144p
ISSN 0286-0651
もくじ
- FOCUS
- 高高度でも飛べるハチドリロボット
- ほくろから長い毛がのびる理由
- 先史時代に存在した女性リーダー
- 火星に水が流れていた時代を推定
- 「室温超伝導」の追加試験結果
- 地下水のくみ上げで海水面が上昇
- イプシロンSロケット燃焼試験で爆発
- 運動で高血圧が改善するメカニズム
- 「IUT理論」の欠陥を発見したら100万ドル
- 「ミュー粒子」で地下空間をナビゲーション
- コロナ禍で5歳児に発達の遅れ
- 自己複製する最小のRNAを発見
- FOCUS Plus
- アスパルテーム”発がん性”報道の背景
- SuperVision
- 観測1周年をむかえたジェイムズ・ウェッブ望遠鏡
- 特集 Newton Special ChatGPTの教科書
- 宇宙の未来
- 美しい結晶の世界
- 第2特集 Newton Special 心と体のバランスをととのえる 自律神経の取扱説明書
- 極低温と冷却の科学
- 進化をつづける産業用ロボット
- 微分・積分
- 色あざやかな鳥
- 星ごよみ 9月の星ごよみ
- Newton Information
- 協力者略歴
- LETTERS
- 次号予告
- 編集後記
目次
Focus
話題の最新研究やニュースをコンパクトに紹介するコーナーです。
毎月いくつかの情報を紹介されています。ここでは個人的におもしろかった記事を、さらにコンパクトにしてピックアップします。
ほくろから長い毛がのびる理由
ジャンル:医学
出典 Signalling by senescent melanocytes hyperactivates hair growth
Nature, 2023.6.21
アメリカ、カリフォルニア大学アーバイン校のワン博士らは、ある身近な現象に注目し、幹細胞が制御されるしくみを研究しました。ほくろから長い毛が生えている人を見たことがあるかもしれません。博士らは、この現象は毛の幹細胞の過剰な活性化によっておきると考えたです。
ほくろの幹細胞の主変には、老化した「メラノサイト」という細胞が多く存在しています。この「メラノサイト」が老化している場合と正常な場合で、幹細胞の活性化の度合いを調査しました。
すると、老化したメラノサイトが分泌する「オステオポンチン」というタンパク質によって、毛の幹細胞が活性化することがわかったのです。
ヒトの毛が生えているほくろでもオステオポンチンが必要以上に存在し、毛の成長をうながしています。
博士らは、ニッチにはたらきかけて幹細胞を制御する、新たな再生医療が可能になるかもしれないとのべています。
「ミュー粒子」で地下空間をナビゲーション
ジャンル:物理学
出典 東京大学プレスリリース
2023.6.16
現在位置や目的までの経路などを表示するナビゲーション義j痛には、GPSが用いられています。しかし、GPSは、GPSの電波が届かない建物内や地下などで使うことができないという欠点があるのです。
東京大学の田中宏幸きょうじゅらの国際研究チームは、「muPS(ミュオメトリック・ポジショニング・システム)」という新たな地下ナビゲーション技術を開発しました。
muPSは「ミュー粒子」という素粒子の特性を利用します。ミュー粒子は宇宙船(宇宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線)が地球の大気と反応してつくられ、透過力が強く、あらゆる人工物をほぼ真空中の高速で通過するのです。
地上の観測点から地価の受信機までのミュー粒子の飛行時間を測定することで、地下でも位置情報を取得できます。
研究チームが発表した実験結果では、muPSによるナビゲーションの誤差は数メートルから数十メートルと、GPSのかんそくより高精度でした。2023年7月の時点では、技術がさらに発展しており、ナビゲーションの誤差3センチメートル程度になっているといいます。
自己複製する最小のRNAを発見
ジャンル:生物学
出典 早稲田大学プレスリリース
2023.7.5
RNAとは、「塩基」と呼ばれる4種類の物質が鎖のようにつらなった構造をもつ分子です。見つかってる自己複製するRNAは長く複雑なもので、原始の地球には存在しなかった可能性があるという問題がありました。
早稲田大学の水内良博士らの研究チームは、鎖の長さが短く、かつ自己複製できるRNAを発見したのです。このRNAは塩基20個からなり、これまでに知られていた最小の自己複製するRNAの3分の1以下の長さだといいます。
ランダムな配列をもつ20塩基のRNAの集団を、高濃度のマグネシウムイオンが含まれる環境に数日間さらしました。すると、塩基が組み変わる反応やRNAどうしが連結する反応が自発的におき、その中から自己複製するRNAが生まれたといいます。
Focus Plus アスパルテーム”発がん性”報道の背景
話題のニュースを紹介するコーナーです。
ジャンル:医学
監修:登田美桜 国立医療品食品衛生研究所安全情報部第三室長
執筆:山本尚恵
ノンシュガー甘味料として広く普及しているアスパルテームについて、発がん性と、食品に添加されたときの健康への影響に関する評価結果が、2023年7月14日に2つの国際機関からそれぞれ公表されました。しかし、これまでどおり食べても安全だと専門家は解説します。
分類を決めるのは「科学的根拠の強さ」
グループ | 評価内容 | 発がん性を示す根拠の程度 | 作用因子 |
---|---|---|---|
1 | ヒトに対して発がん性がある | ヒトにおいて「発がん性の十分な根拠」がある場合 | コールタール アスベスト たばこ カドミウム ディーゼルエンジンの排気ガス アルコール飲料 |
2A | おそらくヒトに対して発がん性がある | 以下のうち少なくとも2つに該当する場合 ・ヒトにおいて「発がん性の限定的な根拠」がある ・実験動物において「発がん性の十分な根拠」がある ・発がん性物質として主要な特性を示す有力な根拠がある | アクリルアミド 非常に熱い飲み物 ヒドラジン 夜間勤務 |
2B | ヒトに対して発がん性がある可能性がある | 以下のうち少なくとも1つに該当する場合 ・ヒトにおいて「発がん性の限定的な根拠」がある ・実験動物において「発がん性の十分な根拠」がある ・発がん性物質として主要な特性を示す有力な根拠がある | ベンゾフラン フェノバルビタール わらび 漬物 ガソリン アスパルテーム |
3 | ヒトに対する発がん性について分類できない | 上記いずれにも該当しない場合 | カフェイン お茶 コレステロール |
アスパルテームについては、それが用いられたであろう人工甘味料入りの飲料とヒト肝臓がんに正の相関があるとする研究報告があります。マウスおよびラットにアスパルテームをあたえると腫瘍が増加したという報告もあるようです。しかし、研究を確認してみると、偶発的に起きた可能性やアスパルテーム以外の原因が影響している可能性を排除できないといいます。つまり根拠が限定的なわけです。よってアスパルテームは発がん性の可能性を示すグループの中で最も根拠が弱い2Bに分類されています。
正しく理解する
アスパルテームのグループ2Bの発がん性は、専門家の間では可能性が相当低いものと考えられています。
「今回のJECFAによる評価でも、アスパルテームは消化管内で2種のアミノ酸とメタノールに分解され、発がん性も含めてヒトに有害な影響をあたえる」としたものは説得力のある根拠に欠けるとしています。
また、大量にアスパルテームを摂取する状況も現実的ではありませんので、安全性について心配しなくて大丈夫でしょう。
進化をつづける産業用ロボット
監修:相山康道 筑波大学システム情報系 教授
執筆者:梶原洵子
警備ロボやお掃除ロボなど、身近な場所で働くロボットが増えてきました。工場や物流倉庫ではロボット(産業用ロボット)が活躍し、私たちの生活を支えています。近年では、きわめて高度な「匠」の技をもつロボットも登場しているのです。
はじまったドローン配送 MK27-2/Amazon.com
アメリカのカリフォルニア州ロックフォードとテキサス州カレッジステーションで、ドローンによる商品配送サービス「Prime Aire(プライム・エア)」を開始しました。利用するドローンはアマゾンが独自に開発した「MK27-2」で、六角形の外側の囲いが特徴的です。
配送ルートなどを決める管制塔の役割をになうシステムに加え、ドローン自体にも障害物などを回避するシステムを搭載しています。2024年に就航を計画しているようです。
また、より軽量で小型の自制代ドローン「MK30 」を開発中です。
「衣類たたみ」を世界最速で行う
アメリカのカリフォルニア大学バークレー校のアビガル博士らの研究チームは、世界一速く衣類を畳めるロボット技術を開発しました。2本のアームをもつ産業用ロボットを使い、ランダムに置かれた衣類を1時間に30~40枚たたむことに成功しました。これmでの3~6枚程度に比べる大きな飛躍です。
ロボットはカメラで衣類の状態を把握し、どこをつかめがいいのかを計算しながら、衣類のしわをのばし、指定された折り線に沿って折りたたんでいきます。
人間には簡単な動作でも、衣類は動かし方によって新しいシワができたりと、ロボットにとっては折りたたむ作業は難しいのです。
研究チームは、4000以上の衣類をたたむ動作をニューラルネットワークに学習させて、能力を身につけさせたといいます。
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