※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
目次
はじめに
アベノミクス=異次元金融緩和だけをとくに念入りにウォッチし、書き続けることになったのには理由があります。
私がアベノミクスの「名付け親」になってしまったからです。
レーガン大統領の経済政策の総称、レーガノミクスにかこつけて、一部のマスコミが言い出したのがアベノミクスです。
名付け親なんですと、つかみネタとして大学の授業などで言っていたこともあり、安倍支持者たちは、私のことをアベノミクスの名付け親と見なして標的をしました。
アベノミクスの本質に迫れるように、こちらからは意見を求めるだけではなく、時に対話のように話題をあちこちに広げ、時には論争的に意見を突き合わせてインタビューしました。
それぞれの視点から、それぞれの角度で存分に語ってもらいましょう。
書籍情報
アベノミクスは何を殺したか
日本の知性13人との闘論
第1刷 2023年7月31日
発行者 前田康弘
発行 朝日新聞出版
図作成 谷口正孝
カバーデザイン アンスガー・フォルマー、田嶋佳子
ISBN 978-4-0229-52219
総ページ数 356p
原真人
1988年、朝日新聞社に入社。経済記者として財務省や経産省、日本銀行などの政策取材のほか、金融、エネルギーなどの民間取材も多数経験。経済社説を担当する論説委員、書評委員、朝刊の当番編集長などを経て、経済担当の編集委員。コラム「多事奏論」を執筆中。
朝日新書
- はじめに
- 第1章 すべてはクルーグマンから始まった
- 安倍政権をとりまいた非主流のリフレ派
- 「日本への謝罪」クルーグマン
- 翁邦雄 〇リフレ論を巡る「岩田―翁」大論争の当事者
- 「綿の御旗」にされた異次元緩和
- 2%にこだわる座標軸が不明
- 幻想から覚めない日銀
- 財政規律を捨てたMMTの危うさ
- 金融緩和にこだわれば大幅円安も
- 実は不都合な2%目標の達成
- 白川方明 〇元総裁が語る「民主主義と中央銀行」
- 金融緩和は将来からの需要の「前借り」
- 英国貴族インは毎回違う顔、将軍は一つ前の戦争を戦う
- 心理を追求した英国貴族院による「白川公聴会」
- 欧米経済もやがて「日本化」してしまう?
- 協調という名の「錬金術」
- 「2%インフレ目標」は正しいのか
- 非理論的で本質を語らなかった黒田会見
- 中央銀行は「今こそ変革の時」
- 第2章 財政破綻、日銀破綻もありうるのか
- 藤巻健史 〇異次元緩和の危うさを最も厳しく問うた
- 日銀の債務超過が一番怖い
- 新しい日銀を作って再出発しかない
- 問題の根源はイールドカーブ・コントロール
- ハイパーインフレは避けられない
- ドル買いで身を守るしかない?
- 「あとは野となれ山となれ」政策
- 中曽宏 〇金融危機は、また来るか
- 日本の金融がメルトダウンに近かった日
- 中銀による救済が当然になってはダメ
- 石弘光 〇平成は「財政不健全化の時代」だった
- 財政破綻しないと考える財政学者はいない
- 健全化への覚悟を問うた矢野論文
- 「矢野論文」で安倍との10時間論争
- 藤巻健史 〇異次元緩和の危うさを最も厳しく問うた
- 第3章 成長幻想も経済大国の誇りも、もういらない
- 佐伯啓思 〇アベノミクスをなぜ見放さないか
- ”失敗だと断定できない”アベノミクス
- 矛盾する「第1の矢」と「第2の矢」
- 「おカネに換算できないもの」を守るのが政治
- 政治家は余計なことはしない方がいい
- マスメディアが世間を動かさないとだめ
- 安倍元首相も「何か」に踊らされていた
- 山口二郎 〇「より良い未来」をあきらめた民意と長期政権
- 景気の上向き登場する政権は長持ちする
- 「正常性バイアス」が強い日本は危機回避に弱い
- 魅力あふれる政策構想を競った時代もあった
- 機を見るに敏の小沢路線も悪くない
- 消費税減税を訴えた野郎共闘はまちがいだった
- 防衛費の大幅増は国民を守れる政策か
- 原点に返って政権交代へのチャレンジを
- 藻谷浩介 〇人口減日本の未来図は十分に描ける
- 世界に先駆け超高齢化、でも子どもは増える
- 佐伯啓思 〇アベノミクスをなぜ見放さないか
- 第4章 エリートの背信が国民益を損なう
- 「白」と「黒」のはざまで揺れる日銀
- 門間一夫 〇「効果なし」でも、やるしかなかった
- リフレ論を本当に信じていた黒田総裁
- 日銀を縛ったのは共同声明でなく「空気」
- のちのち「政策ミス」とつっこまれない修正が必要
- 「金融市場は支配できる」という黒田のおごり
- 供給力さえ維持していれば財政破綻しない
- マクロ政策より国内の成長ストーリーを
- ブレーキがないからアクセルを踏めない
- 「最強官庁」財務官僚から不協和音がもれでる
- 「韓信の股くぐり」と指摘した大物OBの苦言
- 財務省嫌いの官邸とどう向き合うか
- 柳澤伯夫 〇正論をはかぬ主計局の責任は大きい
- 石原信雄 〇「鑑定の大番頭」が語る官邸と官僚
- 官僚の力を削いでいる歪んだ「政治主導」
- 政権交代でも官僚人事いじらず
- 第5章 モノあふれる時代の「ポスト・アベノミクス」
- 水野和夫 〇アベノミクスの本質は「資本家のための成長」
- 何のためのアベノミクスなのか
- めざすは明日の心配をしなくていい社会
- 労働時間を減らしても日本経済に問題なし
- 近代社会に代わる社会を作るしかない
- 無理に成長めざす必要はない
- 利潤を極大化しない交易をすればいい
- ゼロインフレ・ゼロ成長の社会がベターだ
- 人口大国の1人あたりGDPが低いのは当然
- 株式会社はもう上場しなくていい
- 小野善康 〇デフレとは「お金のバブル」
- 足りないのは新しい需要を考える力
- 日銀券への「信心」が崩れたら恐い
- 「ジャパニフィケーション」は日本だけの問題ではない
- 人々の「お金への欲望」が不況を作る
- 二宮金次郎の道徳律は害になる
- 格差拡大は資本主義のもつ病理
- どれだけ魅力的な需要を作れるか
- 水野和夫 〇アベノミクスの本質は「資本家のための成長」
- おわりに
中央銀行は「いまこそ改革の時」 白川方明
白川は23年3月、国際通貨基金(IMF)の季刊誌に「Time for Change」(今こそ変革の時)と題した論考を寄稿しました。
金利が下がり切る「ゼロ金利制約」に到達するのを避けるために米FRBなどが「果敢な金融緩和」を正当化してきたことについて、次のように疑問を投げかけています。
日本は他のどの国よりずっと早くゼロ金利に到達しました。これが政策上の深刻な制約であったのならば、日本の成長率はG7諸国よりも低かったはずです。しかし、日本の1人当たりGDP成長率は2000年から2012年まで、G7平均と一致しています。日本の労働人口1人あたりGDPの伸び率は同期間、G7のなかで最も高かったのです。
金融緩和が10年以上という、より長い期間にわたって行われてると、資源配分のゆがみによる生産性の伸びへ悪影響が深刻化しています。
日本では消費者物価の上昇が加速しているが、他の先進国に比べてはるかに遅いペースです。日本では労働者が保護されていて、将来の成長に強い自身が無い限り、恒久的に賃金を引き上げることに慎重になります。これが低いインフレにつながりました。
いまだ「出口」が見えません。効果が出るまでに時間がかかっているだけだ、という分析を並べた「点検」「総括的検証」があるだけです。
政治意図を排した真の統括と政策の見直しが必要ではないだろうか。
問題はイールドカーブ・コントロール 藤巻健史
日銀の異次元緩和で一番いけなのは、長期国債の爆買い、つまり量的質的金融緩和です。日銀が長期国債を買い始めると、長期金利が下がります。長短金利差で、イールドカーブがなくなり、利ざやで稼ぐ銀行の収入源がなくなってしまうのです。地銀は儲かりません。だから能力もないのに海外事業に次々と進出してしまいました。
日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)は政府の財源調達を助けるための政策です。
「円安が良い」場合は、景気を良くするための武器として使えるときです。「円高が良い」という場合はインフレを防止に使えるときです。
日本はインフレが加速していくなら円安を止めないと、とんでもないインフレになってしまうので、円安放置は最悪だと思っています。
為替介入について、このインタビューの半年後、日本政府が介入したので、見通しとは違う結果となりました。2022年秋の円安のピッチは急すぎたため、投資ファンドの円売り圧力も激しく、放置すると金融市場に不測の事態が起きかねない状況でした。米国政府もさすがに日本側の介入を容認するしかなかったので、批判的な反応は見られません。
失敗だと断言できないアベノミクス 佐伯啓思
「安倍政権によって財政は悪化し、野党が消費税廃止などの風潮をつくりました。量的質的緩和も出口を考慮したものであったにも関わらず、ずっと日本市場を実験場扱いしたようなもので、政治を壊しています。」
そのように評価もできるでしょう。ですが、評価できるところとできないところを確認していくことにします。
株価が上がったのが成果といえます。株価を上げて資産所得を引き上げようと考えです。しかし、資産効果はたいしたことがなく所得は増えていません。株価も米国に比べたら、たいしたことではないのです。
雇用状況は良くなりました。デフレも脱却できています。インフレも起きてはいますが米欧ほど酷くありません。所得格差は開いており、実体経済ではマイナスとなっている人も多いです。
アベノミクスは成功とは言えないものの、失敗と断言することもできません。
二宮金次郎の道徳律は害になる 小野
「日本には世界最大の対外純資産があり、家計の金融資産は2000兆円を超える金持ち国です。なぜ景気がよくならないのですか。」
家計金融資産がそんなに積み上がっているということは、貯蓄をしたまま使わない人が非常に多いということです。車、家、教育費、海外旅行、といった欲求をかなえるための貯蓄です。
満腹の人に、ごちそうを出しても食べられません。消費と言うのは必要以上に増やそうとすると、かえって苦痛になるのです。その点、お金であれば持っていても苦痛に感じません。結果として、お金を使わずに生活することに慣れてしまって、モノが売れなくなるのです。次第に賃金も物価も下がり、日本の長期デフレ不況を起こしました。
「貯蓄は美徳と教えられてきました」
二宮金次郎の「勤勉」「質素倹約」は、成長経済の時代には意味がありました。しかし、今のような成熟経済のものとでは意味がないどころか、むしろ害になってします。総需要が不足しているのに、すべての人が勤勉に働き、生産能力を高め、同時に質素倹約に励んでしまったら、供給力の大きさの割に総需要が少ないデフレ状態がいっそう悪化してしまうからです。
あとがき
アベノミクスの生みの親の安倍晋三は襲撃によって命を奪われてしまいました。
宴が終わったあとは無事完了というわけではありません。飲み残しや食べ散らかした後片付けも、ツケていた請求書の支払いも、すべてこれからの話です。
本書に登場してもらった13人の賢人たちの話からは、その「負の遺産」がどれほど重く巨大なのか、アベノミクスでもたらされた受益に対していかに割の合わないものかを感じとっていただけたのではないでしょうか。
感想
サイト管理人
国民が不景気に思っているか好景気に思っているかで、消費動向が変動して経済指標が上向きになったり下向きになったりします。
不景気だと皆が思って貯め込めば、物価が下がって経済指標も上がっていきません。なら市場に出回るお金を増やして景気を刺激しようじゃないかということで、日銀が国債を買うことで金融機関にお金が入り、金融機関から市場にお金が流れていくように政策したのがアベノミクスです。
10年金融緩和を続けてみて、朝日新聞社とコンタクトのある知識人に政策評価してもらうじゃないか。という書籍でした。
過去のものに批評するものであって、今後の日銀のバランスうんなんを指南するものではありません。新聞が伝えてきた悲観的評価はどうなのかを知れます。
過去の政策と景気について勉強することと、今後の日銀の動向の話を理解するうけでも、悲観的な見解を読んで参考にしてみてはいかがでしょうか。
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