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※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
目次
はじめに
新興国を論じる理由は、ここ10年ほどの間に軍事的な安全保障の分野で活動を強めてきていることです。発展途上国の中で経済発展が顕著だったことは、軍事力の増強と、軍事行動の活発化を可能にしました。
新興国は、ロシアのウクライナ侵攻に関しても、あいまいな態度をとっています。ロシア非難決議のときも、新興国と考えられる地域のうち10か国が棄権しました。その中には、経済成長率が高い、中国、インド、ベトナムが入っています。
新興国の政策の基には、中露がもたらす経済的機会を確保したい、経済成長を続けたいという願いに裏打ちさせているのです。長期の経済停滞に陥れば、中所得国に戻るケースもあるかもしれません。いかに経済成長を継続するかが重要なのです。
日本は、新興国の動きに、どう対処すべきでしょうか。
書籍情報
新興国は世界を変えるか
恒川惠市
東京大学および政策研究大学院大学名誉教授。専門は比較政治学、国際関係論、ポリティカル・エコノミー。
中公新書
所得格差の縮小
新興国の1994年前後と2014年前後の間の変化をみてみると、所得配分上の大きな改善をを経験した国が多いことがわかります。所得格差が縮小しているのです。
格差の縮小を経験したからといって、ラテンアメリカのように、もともと大きな格差ができていた国々では、まだ大きな格差が残っていることには注意が必要になります。負の歴史的遺産です。
それでも、新興国は経済成長の結果低所得者層の所得が改善し、中間所得者は以前より豊かになりました。しかし、家計の所得向上は、公的な社会福祉の拡充を求める強い作用を及ぼしています。
医療保険、老齢年金、社会扶助など、国家が関わる福祉制度の情報は知られていたけれど、大規模に導入できる新興国の財政的余裕はありません。最初は軍人や公務員から適応が始まり、大企業へと広がっていくのが普通です。中小企業の労働者や農民、自営業主への福祉拡充は、なかなか進みません。
しかし、新興国化が進む中で、社会福祉の拡充は確かに進展しています。貧困層への医療拡大を目的とする政策では、5年間で27%から45%に増加しているようです。
インドの民主主義
インドは、新興国の中で1980年代以前から民主主義体制を維持してきた例外的な国です。1947年に英国から独立した時、民主主義体制として出発しました。
独立後、貿易赤字や財政赤字に加え、オイルショックの打撃を受けたのです。物価が急騰し食糧危機などに陥りました。ストやデモなどが起こり、党内も分裂で揺れたのです。
1975年に非常事態宣言を発して、強権で乗り切ろうとしたのがインディラ・ガンディー政権です。しかし、権威主義体制には進まず、1年半後には総選挙で敗北し身をひいています。
インドは、社会管理統制期間が、インドの言語、エスニシティ、カースト、経済階層等の多様性を反映する雑多な勢力によって構成されているのです。これは、インドの独立闘争が、長期にわたる平和的な自治拡大運動として進んだ結果になります。独立闘争を中心的に担ったインド国民会議派は、社会的・地域的に多様な住民の間に浸透しています。
また、分離独立しようとすれば、孤立し連邦軍の介入を招くだけです。独立以来の民主主義体制を受け入れざるを得なかったのでしょう。インド軍の中にも多様性があり、権威主義で意のままに動かせば、内部分裂を招く恐れもあるのです。結果として民主主義体制が維持されました。
もちろん、民主主義体制が70年続いたことで、他の体制が考えられなくなった人々や、民主主義の価値観を評価する人が増えたことも、理由として考えられます。
2つの世界秩序
中露の軍事力で「自由主義的国際主義」の国を圧倒することは、ありそうにないのです。
「国家主義的自国主義」秩序が拡大していったとしても、それが世界で唯一となることはありません。
つまり、「限定された自由主義的国際主義」と「限定された国家主義的自国主義」が併存し、競合する世界になるのではないかと思われます。
この2つの世界は、完全には分離せず、経済面を中心に結びつきを維持するでしょう。そして、新興国や途上国の指導者は、2つの世界の競争を利用して、自己の政権を維持し、できるだけ大きな経済的利益を得るようにふるまうのです。
何が必要か
新興国の経済発展は、日本が彼らと経済関係の緊密化を通して寄与しています。日本は「自由主義的国際主義」秩序の下で平和と繁栄を享受することに貢献してきたのです。
しかし、「国家主義的自国主義」を生み出すことに繋がってしまいました。
先進国や新興国との協力関係を深めることで「国家主義的自国主義」を抑止するためには、経済・社会政策、国民の意識も変えていく必要があるのです。
日本が軍事的攻撃の対象になった場合でも、米軍や自衛隊に防衛を任せたいという意識が日本人の民意に根付いています。個人の利益を重視したり、戦争を忌避したりする「自由主義的国際主義」の思いとは矛盾しているのではないでしょうか。
経済・社会政策と、その方向について、新しい日本国内の合意を形成する必要があると考えます。
あとがき
ラテンアメリカの研究からスタートして、日本を含む東アジアへと研究の対象を広げてきました。専門的に研究したことはありませんが、学会や研究会の場を通して、多くの研究者から学んできたのです。
彼らからの学びがなかったなら本書の執筆をなし得えなかったでしょう。
感想
サイト管理人
軍事力を持てるようになった国が、国内の資源や国外への影響力を盾に、脅威になっているという話です。国民の意識も、矛盾しているという終わり方をしています。
暮らしを圧迫しないのであれば構いませんが、なかなか庶民の金銭感覚を知らないと国策が民意を得られることはないように感じます。
物価が上がって、税収も増えるのでは、フラストレーションが溜っていく環境です。世間とのズレが広がると、さすがに日本でも暴動が起きるのではないでしょうか。
社会保障がこれだけ整っている国で、家計充足度が満足になっていないわけです。軍備で引かれる金額は最低限に抑えたいのは、普通だと思います。
とはいえ、反撃できる制度に変えて、攻撃されにくくしたのは、これは最低限の軍備になるのではないかとも考えられるのです。
新興国の軍事行動に、漠然とした不安をかかえる人もいると思います。そうした不安を整理するためにも、この書籍を読んでみてはいかがでしょうか。
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