日本社会のしくみ

※読んだ本の一部を紹介します。

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

はじめに

 雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまでを規定している「社会のしくみ」を検証していきます。

 日本社会の暗黙のルールとなっている「慣習の束」を紐解いていきましょう。

書籍情報

タイトル

日本社会のしくみ

雇用・教育・福祉の歴史社会学

第1刷 2019年8月1日

発行者 渡瀬昌彦

発行 (株)講談社

著者

小熊英二

慶應義塾大学総合政策学部教授。学術博士。

出版

講談社現代新書

世界の格差意識

欧米の三層構造

 日本で意識される雇用区分は、「大企業か中小企業家か」つまり「どの会社か」の区分です。しかし、アメリカその他の社会では、「ホワイトカラーかブルーカラーか」つまり「どの職務か」の区分の方が強く意識されています。

 アメリカの雇用体系意識は、三層構造に分けるとわかりやすいです。上級職が命令・管理・企画・経営・マネジメントなどの役割をします。下級職の事務・中級技術者が、現場には欠かせない実務的な職務を担います。その下に現場で体を動かすブルーカラーの労働者がいるのです。

 「欧米人は仕事優先ではなく人生やバカンスを楽しんでいる」というのは、下級職員や現場労働者の話になります。「欧米は成果主義で競争が激しい」というは、上級職員の話なのです。

 日本の場合は「どの会社か」が重要になるので「A社に就職したい」という言い方が出てきます。正社員になってしまえば平等だという「社員平等」を前提にしているからです。

 欧米では「社員平等」は存在しません。その変わり「職務の平等」は存在します。財務に強い上級職員であれば、A社だろうがB社だろうが国際機関であろうが、高給取りの財務担当者になるでしょう。逆に、現場労働者はA社だろうがB社だろうが、現場労働者のままなのです。

 日本の企業では1つの社内で「タテの移動」の可能性はあるが、「ヨコの移動」が難しいものになります。欧米では「ヨコの移動」は簡単で、「タテの移動」の方が難しいのです。

年功昇進と定期人事異動

Image by PayPal.me/FelixMittermeier from Pixabay

 1886年に出された高等官官等俸給令は、勤続年数にもとづく昇進が慣例化した契機として言われています。1つの官等に5年以上勤務しなければ、より上位の官等に昇進できないことを定めたものです。

 この規定は改正などにより、待遇を変えて、昇進制限期間が2年に緩和されることとなりました。2年で昇進させると規定したものではありませんでしたが、異動しながら1つずつ官等をあげ、入省後10年で課長クラスに就任するパターンが定着したようです。

 戦後に高等官官等俸給令は廃止されました。しかし、その後もキャリア官僚が2年ごとに移動して昇進するという慣例は残ります。

 新規学卒者は7月に入賞したしたため、戦前の官庁では6月から7月に人事異動が多くありました。いまでも官庁の人事異動は7月に多くあります。形成された慣行は、根拠がなくなっても、継続性を持ち続けているのです。

混合組合の結成

Image by Nicajo from Pixabay

 1946年1月に軍隊から復員し、郵便局で働き始めた人の月給は75円でした。米1.5Lが65円だった当時、彼は落花生を千葉まで自転車で買いつけに行き、闇市で売っていたといいます。

 こうした状況では、経営側も労働者の要求に同情せざるを得なかったのです。

 味噌の味のしない食事で、重労働ができるか。
 物価もあがっていて、米も買えない。

戦後の労働者の怒鳴り声

 このことも混合組合の結成を促しました。

 戦前の職員は特権層であり、職工との差別は激しいものでした。

 企業別の混合組合は、日本の文化的伝統ではなく、敗戦による職員の没落を背景として生まれたものなのです。

45歳以上の7割が課長以上

Image by Gerd Altmann from Pixabay

 1000人以上の大企業で働く大学卒業者は、45~49歳で約30%が課長に、約30%部長になっており、次長まで含めれば約7割が課長以上になっています。

 1960年代末以降の日本企業は、学歴よりも「社内のがんばり」で昇格が決まる傾向が強く、能力主義が競争を生みました。教育にしても同じで、上位の成績を取った者は大企業に就職するチャンスが顕著に高かったのです。

 正社員に就職し、昇格する枠が埋まっていくなかで、企業が依存したのは非正規雇用の従業員です。長期雇用と年功賃金を続けようとすれば、適用対象をコア部分に限定するしかありませんでした。

 中小企業の非正規雇用増えると、1980年代には「新たな二重構造」として問題視されるようになっていったのです。

あとがき

 当初の構想は、雇用、教育、社会保障、政党、税制、地域社会、社会運動などを、包括的に論じるものでした。

 しかし、雇用慣行を調べていくうちに全体を規定していることが見えてきたのです。最初に書いた草稿はすべて破棄し、雇用慣行の歴史に比重を置いて、全体を書き直すことになりました。

 社会を深部で規定している原理の解明は、学問分野に細分化される以前の基本的な問題意識であり、それを追究することも独自の貢献たりうる研究ではないかと思うのです。

 この社会の人々すべてに共通する問題を考え、未来を拓くための議論を触発する本であることを願っています。

感想

サイト管理人

サイト管理人

 100年以上前の慣行が、いまの社会でも影響を与えているという切り口でした。

 7割が役職につく社会というのも、おかしな話です。

 戦争後はかなり時代が動き、労働者に同情するようなことが起きなければ、会社を労働者の立場から誠実な雇用体系について、物申せる組合が存在しなかったかもしれません。

 歴史をたどると社会のしくみが解かることもあるようです。

 役職だらけの会社、終身雇用は守れない、いろいろな社会問題に議論を触発する。そんな、書籍はいかがでしょうか。

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