※読んだ本の一部を紹介します。
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
目次
書籍情報
タイトル
災厄の絵画史
発行者 國分正哉
発行 (株)日経BP、日本経済新聞出版社
発売 (株)日経BPマーケティング
ブックデザイン 漆原悠一
印刷・製本 中央精版印刷(株)
著者
中野京子
作家、ドイツ文学者。
西洋の歴史や芸術に関する広い知識をもち、幅広くメディアの活動をしています。
出版
日経プレミアシリーズ
ポンペイ最後の日
十九世紀のロシア人画家カール・パヴロヴィチ・ブリュロフ(1799~1852)が滞在先のローマで完成させ、大評判を得た『ポンペイ最後の日』です。
ブリュロフは、何度も現地に足を運び、多くの資料を読み込みました。
イタリア南部の風光明媚な町ポンペイは、帝国有数の保養地だったようです。神殿がそびえ、富裕層の邸宅や公衆浴場が建ち並び、闘技場がありました。水道や舗道が完備され、人口も2万を超えるほど栄えていたとされています。紀元七九年夏、ヴェスヴィオ火山が噴火しました。
大プリニウス(父)は、ポンペイの対岸の町ミセヌムに住んでいたが、火山活動の観察と避難者救助のため、ガレー船でナポリ湾を渡って行いました。小プリニウスにも同行するように勧めたが、彼は断ります。老いた母を心配していたのです。
ミセヌムは激しい地震と津波に襲われて、火山灰が降り続いています。道路は避難民であふれ、阿鼻叫喚に満たされていたのです。
ようようと、母と共に何の逃れることができたが、叔父プリニウスが火山で窒息死した報せをうけました。
小プリニウス(後のローマ執政官)の体験記より
ポンペイの死者数は2000人とされています。火山の不気味な鳴動が始まったときに大多数の人は町を出たからです。楽観視していた者と、家族を置いて行けなかった者が犠牲になりました。
ポンペイとその周辺の発掘は現在もなお続いています。
戦争礼賛
ルーベンス没後2世紀を経て作成されたのが、『戦争礼賛』です。ロシアでもっとも著名な戦争画家であるヴァシーリー・ヴァシリエヴィチ・ヴェレシチャーギン(1842~1904)が手がけました。
自ら飢えや病気や負傷を経験して、描かなければならないと常々主張していたようです。露土戦争では重傷を負っています。
この作品の額縁には、「過去、現在、未来の全ての征服者に捧げる」という画家自身の銘文がのこされています。彼は、反戦主義者です。
舞台となっているのは、ロシア侵攻して焼け野原になったトルキスタンの戦場となります。遠くに崩壊した市壁や屋根、枯れた大地に、不吉な黒いカラスばかりが飛んでいます。頭蓋骨には刃物の切り傷がみえるのです。
ヴェレシチャーギンは従軍を続けていました。日露戦争で、艦隊司令官マカロフ提督に誘われて、ペトロパヴロフスク号に乗り込みます。数日後、巨大戦艦は日本軍の水雷にあい、海に沈みました。
早すぎた埋葬
コレラ菌は酷寒地でも炎暑地でも感染させられるほど強力で、症状も強烈です。下痢、脱水、嘔吐、痙攣。そして死をむかえます。治療薬のない時代、死亡率が70~80%という凄まじさでした。
ベルギー・ロマン派の画家アントワーヌ・ヴィールツ(1806~1865)の『早すぎた埋葬』を見てみましょう。
仮死状態から目が覚めた男が必死で蓋をこじ開けると、屍衣をまとい、棺に寝かされて地下墓所に閉じ込められていることを知ります。
蓋には「Mort du cholera」コレラによる死と書かれているのです。かなり雑に扱われていることがわかります。
カヘラの男の子と女の子
アイルランド人ジェームズ・マホニー(1810~1879)『カヘラの男の子と女の子』です。
カヘラの道路で飢えた子どもたちがジャガイモを探して地面を素手でほじくっており、そこから遠くない場所で6人の死体が埋葬されないまま野ざらしになっていたといいます。
こうした惨状をイギリスにも広く知らしめたいと、美化せずに描いたのです。
しかし、イギリスはアイルランドに食料の輸出をさせ続けました。イギリスが謝罪したのは1世紀半が経った1997年、ブレア首相の時代です。
この飢饉で亡くなった人は約150万人と言われています。
感想
サイト管理人
いろいろな悲劇の絵画が、1000円ちょっとで解説付きで観れるというのは、なかなかにお得な気がします。日経のweb上でもタダで見れるのですが、コラム別に掲載されているので、なかなか面倒くさいです。サクっと読む分には、横書きのwebの方がありがたいくもあります。
ヴェレシチャーギンの戦争礼賛は、鳥肌が立ちました。ぼやけてもわかる風景とまるでピントを合わせたかのような写真のような出来です。ガチの天才は、日本軍の水雷で死にました。
絵画を介して、伝わってくる歴史や想いもあるのではないでしょうか。
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