武士道とエロス

※読んだ本の一部を紹介します。

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

はじめに

あたたかい草履
 草履取姿の藤吉郎は、跪いてなにやら信長に弁明している様子。それを見下ろす凛とした信長の武者ぶり。
 ある寒い朝のこと、信長が草履に足を入れると、奇妙にあたたかい。さては草履取の藤吉郎が知りに敷いていたにちがいない、そう確信した信長は、藤吉郎を呼んで厳しく問いただした。
 「いえいえ滅相もない。ご主人様のぞりがあたたかいのは、私が懐に入れてあたためていたらです」
 証拠にと懐を開く、藤吉郎の懐中は泥で汚れていた。

 出世を遂げた木下藤吉郎の代表的エピソードの1つです。

 人肌で温めていたものを信長が感じるという、妙なエロスを感じる部分です。

 実際には、戦国期を研究するものによって、草履は下駄であり、懐ではなく背中のなかに入れていたものだと判明しています。

 「忠」という感情、男どうしの絆の在り方を歴史的に振り返る時、重要な示唆を含んでいるのではないでしょうか。

 史料的制約という躙口をかいくぐって、武士道はエロスの香です。

書籍情報

タイトル

武士道とエロス

著者

氏家幹人

作家。

 東京大学教育大学文学部で日本近世史を専攻し、歴史になぞらえた著作物を執筆しています。

出版

講談社現代新書

美少年をめぐる争奪

『松梅語園』
 加賀中納前田利常に従える児小姓の九蔵は、比類なき美少年だった。筑前守は、かねてより九蔵を「貰いたい」と熱望していたが、どうしても父の中納言に面と向かって申し出ることができなかった。
 躊躇していたが、ある夜、敷居際にいた市三郎がキッカケを作ってくれたので、筑前守は自分の待望を父に申し出ることができたとか。
 「父上、私に児小姓の九蔵をください」

 こうして九蔵という美少年は、めでたく父から子へ譲渡されたというのです。

 江戸前の風潮を顧れば、BL風味の文学作品が語られることも、不思議ではありません。

 忠臣蔵の発端が、吉良と浅野の美少年争いだったということではないのです。ただ、江戸時代前期までは、武士の間の喧騒、敵討といえば、まず第性感同性愛の問題が想起されるほど、社会に広く深く浸透していました。

戦術としての男色

『春日山日記』
 神保氏には高木佐伝次という少性が仕えていた。16歳だった少年は評判になるほどの美少年で、神保氏の求愛は深かったという。2人は強い絆で結ばれていた。
 そのたぐいまれな美貌を武器んび震源の側に仕えるチャンスをつかませ、しかるのちに進言を暗殺しようという計画が立てられる。

 計画が未遂に終わったことはいうまでもありません。忠実な話かどうかもわからないのです。ただ、同様の戦術が当時の常とう手段のように記されてる書記は多く残されています。

 『万川集海』『新編会津風土記』などにも、戦術に同性愛が決定的な役割を果たしていたことになっているのです。

男色はなぜ衰えたのか

国文学者松田修氏の見解
 戦闘要員としての武士が、官僚的に武士にトリミングされてゆく過程で男色はその社会的有効性を喪失する。
 戦いに深い関係が必要だったが、管理職のような体制になり、男色が必要なくなったということ。

 戦う必要性がなくなり、男色が集団の精度から個々の性愛へと嗜好が矮小化、特殊化されていく流れも理解できます。

 幕府の倹約を強制する政策や、強力な風俗統制は多大な影響を及ぼしました。

 豊かになったことによって早婚化したことや、ヨーロッパなどで流行したペストなどの人口動態などの影響もあるかもしれません。

性の歴史の面白さ

アラン・ブレイの語り
 『同性愛の社会史 イギリス・ルネサンス』の著者です。
 「同性愛だけでなく、過去における、より広い性の問題の研究は、ほとんどの歴史家たちの関心からすれば、まだきわめて周辺的なもとでしかない。それはたしかに面白い。性とはふつう面白いものである。しかし、それ以上ではないのか。いくらかでも自信をもってそのことを主張する歴史家はほとんどいなかったようにおもわれる」

 男女間の性愛はもとより、男性同士の愛というテーマもまた、江戸時代史を考えるうえで、歴史学の重要な課題なのです。

 性は面白い。共感しないではいられません。

 江戸の性愛史は、研究すべき事柄がまだ手付かずのままに放置されています。近い将来若い研究者たちの手で空白を1つ1つ埋められていくことでしょう。

感想

サイト管理人

サイト管理人

 下ネタは、お笑いと相性が良いのは証明されている事実です。

 同性愛が歴史の一部では、頻繁に行われていたよう…と雰囲気を醸している面白い書物ですが、気を付けて読んでみると実状はわからないということでした。

 ゴムもない世の中で男色が流行していれば、エイズのようなものが流行っていた記述も残っていそうなものです。

 こういう本に触れると、LGBTQを過剰に擁護する動きについて考えてしまいます。LGBTQの在り方を否定するつもりは全くありませんが、生理的な嫌悪感を反射的に感じてしまう事も悪なのでしょうか。時々感じてしまうことがあります。

 芸術家にはLGBTQが多く、中には想像を超える性癖を持つ人がいます。それらの性癖に対して嫌悪感を持たないというのは無理があるのです。SNSでは、これからも炎上騒ぎがあるのでしょうか。

 この本を読んで「ゾワッ」と鳥肌が立つこともありました。面白い読み物ではあるでしょう。武士の男色を集めると、こんな書物が出来上がります。ほどんどが創作の歴史かもしれませんが、本当の歴史も大小混じっているものです。この斜め視点の歴史を堪能してみてはいかがでしょうか。

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