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目次
書籍情報
世界を変えた8つの企業
発刊 2024年4月30日
ISBN 978-4-492-50353-9
総ページ数 413p
ウィリアム・マグヌソン
テキサスA&Mロースクールの教授で起業法を教えている。以前はハーバード大学で法律を教えていた。
東洋経済新報社
- 序_企業の役割
- ディケンズが描いた企業の内部
- 企業が動かしてきた世界
- 企業とは何か
- 「見えざる手」による市場の監視
- 企業は世界に災いを招く?
- 企業の存在意義とは何か?
- 放棄されてしまっている企業の本来の役割
- 法律事務所で浮かんだ本書のアイデア
- 変わり続けてきた企業のあり方
- 第1章 「ソキエタス」がもたらしたローマの繁栄
- ローマを救った3つの企業
- 共和政ローマにおいて企業が果たしていた役割
- 「ソキエタス・プブリカノルム」と呼ばれる民間組織
- ソキエタスと現代の企業の3つの共通点
- ソキエタスがもたらした多大な恩恵
- ソキエタスによる不正や虐待
- 共和政ローマの衰退期におけるソキエタスの影響力
- 貴族階級と中産階級の対立と三頭政治の台頭
- ソキエタスの長い衰退
- ローマの経験が示す教訓
- 第2章 メディチ銀行が築いた金融システム
- ルネサンス期の「万能人」ロレンツィ・デ・メディチ
- 銀行業が世界に及ぼしたふたつの影響
- 世の中の混乱から生まれたフィレンツェの銀行業の繁栄
- 「為替手形」と「乾燥為替」と「任意預金」及び「複式簿記」の採用
- 教会や統治者といった顧客の開拓
- リスクを分散させるための組織形態
- メディチ家が支えた芸術家たち
- 政治と距離を置いたジョバンニやコジモ
- 銀行を政治に利用したロレンツォ
- パッツィ家の陰謀とロレンツォの復讐
- メディチ家の没落
- メディチ銀行が生み出したもの
- 第3章 東インド会社が解き放った株式に秘められた力
- 株式を巡る内戦
- 株式の大きな長所と欠点
- 東インド会社の誕生
- オランダ東インド会社による妨害とインドへの進出
- 株式会社の3つの重要な利点
- 株式と経営者のあいだの緊張
- 現地の社員の監視
- 株式市場の台頭と株価の層さ
- ジョサイア・チャイルドの「ビジネス戦略」
- ロバート・クライブとベンガル太守との戦い
- 東インド会社の蛮行とボストン茶会事件
- アダム・スミスとカール・マルクスによる批判
- 株式と株式取引がもたらした問題
- 第4章 アメリカ大陸横断鉄道と独占の問題
- リンカーンが夢見た大陸横断鉄道
- 資本主義の理論の欠陥
- 鉄道建設への期待と論争
- 民間企業に委ねられた鉄道の建設
- 難航した資金調達
- 建設の開始と数々の困難
- 加速する鉄道建設
- 先住民族の抵抗
- 技術者ドッジと財政家デュラントの対立
- ついに鉄道がひとつにつながる
- 拡大する商業活動
- クレディ・モビリエ汚職事件
- 「泥棒男爵」による競合企業の排除
- 鉄道会社への非難と連邦政府による規制
- 問題だらけのユニオン・パシフィック
- 当たり前になっている独占がある状況
- 第5章 フォード・モーター・カンパニーが可能にした大量生産
- 全従業員の賃金を2倍以上に
- 効率の良さには代償が伴う
- ヘンリー・フォードの発明
- 会社の設立と株主との対立
- 「万人の車」の実現
- 「科学的管理法」と組み立てラインというアイデア
- 労働者の置かれたきびしい環境と賃金の引き上げ
- 株主と会社の対立
- 非人間的な生産方式
- 労働者との対立
- 消費主義時代のはじまり
- 語り継がれることになったフォードの伝説
- 大量生産という奇跡の光と影
- 第6章 国家を超越した石油会社エクソン
- 1973年の石油危機
- 石油会社が危機の緩和に果たした役割
- グローバル化の原動力となった多国籍企業
- 嫌われ者の石油会社エクソンの歴史
- エクソンが主導した第一次世界大戦下の石油供給
- 世界各地での採掘権の獲得と多国籍企業化
- 石油に支えられた第二次世界大戦の勝利
- 石油需要の急増と新たな採掘技術の開発
- 国家を凌駕する存在
- 石油による環境への悪影響
- 気候変動対策の規制を阻もうとするエクソンの取り組み
- 多国籍企業の功罪
- 第7章 コールバーグ・クロビス・ロバーツと「乗っ取り屋」の時代
- 企業の所有と支配の分離という問題
- プライべーど・エクイティ投資会社に対するふたつの相反する味方
- 「ブートストラップ」と呼ばれる企業の買収手法
- 資金調達と最初の投資
- 複雑を極めた企業の買収手続き
- 莫大な利益をもたらしたKKRのプライベート・エクイティ投資
- マイケル・ミルケンのジャンク債事業
- 投資先企業の業績改善とコスト削減
- 並外れた成功の物語
- 高まるプライベート・エクイティ投資への批判
- 敵対的買収とKKRの社内で生じ始めた亀裂
- 過去最高額の買収劇と吹き荒れる批判の嵐
- コールバーグのショッキングなスピーチ
- 巨利と破壊をもたらした乗っ取り屋の時代
- 第8章 スタートアップ企業フェイスブックによる想像と破壊
- 千年紀で随一の支配的企業
- 「スタートアップ」とは何か
- 成功を手にした若者たち
- 大学生のザッカーバーグが開発したアプリ
- フェイスブック誕生の裏側
- ベンチャーキャピタルからの資金調達
- 法人化にあたって生じた諍い
- プライバシーへの懸念
- 利益よりも成長を目指せ
- 「迅速に動き、破壊せよ」
- 広告による収益化(マネタイズ)
- いかに広告をクリックさせるか
- コンテンツ・モデレーションの問題
- ユーザー情報へのアクセスを誰に認めるのか
- フェイスブックによるデータ収集
- 選挙へのソーシャルメディアの影響
- ドナルド・トランプ対ヒラリー・クリントンの大統領選
- 暗躍するロシアの諜報機関
- フェイスブックへの批判
- ザッカーバーグの謝罪
- スタートアップの時代に隠されたわな
- 結論_共通善の促進のために
- 協力がもたらす偉業
- 企業は政治に関与すべきではない
- ぼやけてしまった企業と共通善との結びつき
- 企業を修正するための8つの原則
- 企業は人々を協力させることができる
書籍紹介
現代社会の経済や文化に大きな影響を与えた企業の歴史とその背後にある物語を深く掘り下げた一冊です。本書は、ただ企業の成功や失敗を語るだけでなく、各企業がどのようにして時代を変え、人々の生活にどんな影響を与えたのかを多面的に探求しています。
企業を通じて見る歴史と未来
マグヌソンは、8つの象徴的な企業を選び出し、それぞれの成長過程や課題、社会的影響を描写しています。取り上げられている企業は、技術革新、グローバリゼーション、そして消費者行動の変化に至るまで、現代のあらゆる局面において重要な役割を果たしてきました。例えば、AppleやGoogleは、単なるテクノロジー企業としてだけでなく、デジタル時代の象徴として描かれ、その成功がいかにして世界中の人々の生活を変えたかが語られます。
経済と社会の交差点
本書が特に注目すべきなのは、企業の成功が単に経済的な勝利にとどまらず、広範な社会的・文化的影響を及ぼしている点です。各企業の事例を通じて、資本主義の進化、グローバル市場の形成、そして技術革新がもたらす社会変動が詳細に論じられています。これにより、読者は単にビジネスの視点だけでなく、歴史や社会科学の視点からも企業を理解することができます。
読むべき理由
『世界を変えた8つの企業』は、ビジネスや経済に興味がある読者はもちろん、現代社会の構造に興味を持つすべての人にとって価値のある一冊です。各企業が直面した課題や成功の背景にある戦略は、未来のビジネスや社会のあり方について考えるための重要なヒントを与えてくれるでしょう。また、マグヌソンの鋭い分析と豊富な事例研究により、企業を通して世界を読み解く新たな視点が得られること請け合いです。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
メディチ家の没落
UnsplashのDavid L. Espina Rinconが撮影した写真
ロレンツォは、約10年間メディチ銀行の頭取を務める間に、次々と敵を増やしていきました。その敵の一人、大司教フランチェスコ・サルビアーティーは、ロレンツォが融資を拒否したことから、メディチ銀行からパッツィ銀行に名義変更しました。
パッツィ家はメディチ銀行を潰すために教会と結託し、ロレンツォ家を滅ぼす計画を立てました。しかし、この計画は暴徒と化した市民の反乱によって失敗に終わりました。生き残ったロレンツォは、パッツィ家に対して容赦ない復讐を遂げました。
しかし、ロレンツォの暴力は味方を離れさせ、敵を激怒させました。ローマとナポリのメディチ銀行の資産が没収されると、ロレンツォは資金不足に陥り、フィレンツェの国庫から現金を横領し始めました。
15世紀末には、メディチ銀行の負債が膨らみ、市民の反乱が起こり、メディチ家は国外追放されました。
それでも、メディチ家の遺産は現在まで生き続けています。メディチ銀行が高利貸しを禁じる教会法を回避するために考案した画期的な金融商品は、ヨーロッパの経済を一変させました。ハブ・アンド・スポーク方式の事業形態は、銀行持ち株会社の先駆けとなり、その優れた会計手法は今も世界中で使われています。
全従業員の賃金を2倍以上に
1914年1月5日、フォード・モーター・カンパニーは全従業員に対して1日5ドルの賃金を支払うと発表しました。これはそれまでの給料の3倍以上にあたります。また、就業時間も10時間から8時間に短縮されました。
フォードは記者に対して、「2万人の従業員に豊かになってもらい、満足してもらうほうが、わずか数人の幹部を億万長者にするよりもずっと良い」と語っています。
この決断の背景には、ハイランドパークの工場の状況がありました。自動車の組み立てラインでは、機械のペースに合わせる作業員が不足していたのです。また、工場の離職率が非常に高かったため、なんとかして従業員の会社への忠誠心を高めたいというフォードの思いがありました。
この施策の結果、1913年に170,211台だったT型フォードの年間生産台数は、1915年には308,162台にまで増加しました。
気候変動対策の規制を阻もうとする
エクソンのビジネスモデルは、人々に石油を購入してもらうことで成り立っています。1963年の大気浄化法と1975年のエネルギー政策保全法の可決により、石油燃料の使用に関する規制の脅威を経験しました。
1980年代には、ハーバード大学の天文物理学者ブライアン・フラナリーを雇い、気候変動の科学が「不確実」であると発表させました。このフラナリーの結論は、エクソンのトップ層によっても繰り返し主張されてきました。1997年、環境条約である京都議定書を巡る交渉が行われていた時期にも、気候変動の影響について懐疑的な見方が示されています。
しかし、気候変動は国境を越える現象であり、中国の工場から排出されたガスがテキサス州の気候に影響を与え、その逆もまた然りです。また、一つの国で排出ガスが規制されても、他の国で排出量が増加するという問題も発生しています。政府はこの問題に対処する能力が十分ではなく、現在でも包括的な解決策を見出せていません。
いかに広告をクリックさせるか
テクノロジー業界随一の頭脳が集まったフェイスブックは、あらゆる問題を克服してきたように見えました。2012年にはIPOに基づく時価総額は、1040億ドルを記録しています。巨大なユーザー基盤を獲得し、持続可能なビジネスモデルを確立した印象がありました。
しかし、フェイスブックの初期の社員の中には、「我々の世代の最も優れた知性が、人々に広告をクリックさせる方法にその頭脳を費やしている。彼らの才能が科学の未解決の問題に向けられていたら、世界は今頃どうなっていただろうか」と嘆く者もいました。
熱烈なフェイスブック支持者であったショーン・パーカーでさえ、フェイスブックが危険な製品を作り出してしまったと認識しています。「いいね」を得るために努力するなど、人間の弱い部分を突く設計であることを明確に理解していたのです。