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目次
書籍情報
2030-2040年 日本の土地と住宅
野澤千絵
工学博士。
現在、日本都市計画学会理事、公益財団法人 都市計画協会理事。
国・自治体の都市政策・住宅政策に関わる多数の委員を務める。
中央公論新社
- 序章
- 入手困難化する住宅
- 中古マンションも戸建住宅も上昇
- 可処分所得と不動産価格上昇の乖離がますます深刻に
- G7の中でも住居費の負担割合が高い日本
- 「高コスト化」という構造的問題
- 転売目的の不動産投資の功罪
- 中古マンションの流通量は増えているのだが……
- 都市化しきったことによる開発余地の乏しさ
- これから住宅の流通増が見込まれる利便性の高い街はどこか?
- 第1章 この10年の地価高騰を読み解く
- この10年で約6割の市街化区域で地価上昇
- どのようなところで地価が上昇したのか?
- 東京23区で地価が高騰したエリアは・・・
- 地方都市も開発ラッシュエリアで顕著な上昇
- 鉄道駅から徒歩圏外では下落傾向
- 鉄道駅から徒歩圏内でも下落したエリア
- 鉄道駅から徒歩圏外でも上昇したエリア
- 細分化し続ける大都市の土地
- 将来、不良ストックになりかねない
- 地価は安いが、災害リスクが高いエリアで人口が増えている
- 江東デルタでの顕著な人口増
- 浸水想定がないエリアに居住できる余地はあるのか?
- 固定資産税収入が増加した自治体が抱える問題
- 後追いの公共投資で財政赤字リスク
- 観光開発のスプロールの罪
- 第2章 今、なぜ、家が手に入りにくいのか?
- 庶民にはもう買えない
- 新築マンション供給は10年前から半減
- 「都市化」しきったことによる開発余地の減少
- 中古マンション価格も高騰
- 耐震性不足と判明しているマンションでも物件価格は上昇
- 中古マンションより入手しやすい戸建住宅
- 空き家は多いが流通にまわらない
- 2025年の東京、実需層の世帯数ピークに
- 住宅実需層のニーズとのミスマッチ問題
- 積み上がる古い中古マンション在庫
- 「手が出ない住宅」 と 「手を出したくない」 住宅ばかりが増加
- 緊急輸送道路沿道ですら進まぬ耐震化
- 世界に比して住居費にあえぐ日本
- 手頃な価格の「アフォーダブル住宅」の確保
- 第3章 高コスト化する再開発
- パワーカップルでも入手困難な再開発タワマン
- 全国各地で見られる再開発ラッシュ
- 再開発で住宅供給が多い区は?
- 市街地再開発事業の仕組み
- 第1種市街地再開発事業の事業収支の構造
- 高コスト化する市街地再開発事業
- 「高く大きく」なる理由
- 容積率の割り増しの多発が一極集中を助長
- 再開発でタワーマンションばかり建つ理由
- やめられない 止まらないタワマン建設
- 郊外の駅前にタワマンは必要ですか?
- 再々開発も必要な時代に
- 見直すべき再開発の一律的取り扱い
- 行き過ぎた「民間主導」のゆくえ
- 第4章 中古マンション編:住宅の流通量が増加する駅
- 合計特殊出生率が1.0を下回った東京
- 分析の方法
- 中古マンションの流通量が増えるのは2040年頃
- 都心3区(千代田区・中央区・港区)
- 城南エリア (品川区・大田区・目黒区・世田谷区)
- 城西エリア(新宿区・渋谷区・杉並区・中野区)
- 城北エリア(文京区・豊島区・北区・板橋区・練馬区)
- 城東エリア(台東区・江東区・江戸川区・墨田区・葛飾区・足立区・荒川区)
- 浸水継続時間にも対応しうる防災対策を
- 多摩方面の中古マンション
- 埼玉方面・千葉方面の中古マンション
- 横浜方面の中古マンション
- 新たな都市問題になりかねない管理不全マンション
- 第5章 中古戸建編: 住宅の流通量が増加する駅
- 中古戸建住宅の流通が増えるのは2030年頃
- 城南エリア (品川区・大田区・目黒区・世田谷区)
- 城西エリア (新宿区・渋谷区・杉並区・中野区)
- 城北エリア (文京区・豊島区・北区・板橋区・練馬区)
- 城東エリア(台東区・江東区・江戸川区・墨田区・葛飾区・足立区・荒川区)
- 多摩方面の中古戸建
- 埼玉方面・千葉方面の中古戸建
- 横浜方面の中古戸建
- 終章
- 高コスト化を助長する都市づくりから脱却するために
- 「アフォーダビリティ」を都市政策の論点に
- 過度な「共有化」「区分所有化」の抑制
- 建築物の終末期を視野に入れた政策の原則化
- 「都市再生」から「生活圏の再生」へ
- 政策課題に応じたガバナンスの構築
- あとがき
書籍紹介
都市工学者である野澤さんが、日本の住宅事情や土地の未来について、データを基に丁寧に分析した内容が詰まっています。現在の住宅価格の高騰や、これから先の不動産市場がどうなるのか気になる方にとって、とても参考になる一冊です。
住宅価格高騰
この本の大きなテーマは、東京23区の新築マンションの平均価格が1億円を超えたという衝撃的な事実から始まります。人口が減少しているにもかかわらず、なぜ都市部の住宅価格が高騰しているのか、その理由を野澤さんはわかりやすく解き明かしています。再開発やタワーマンションの建設がもたらす影響を「罪」という言葉で表現し、現代の都市政策が抱える問題点を浮き彫りにしているのが印象的です。特に、現役世代が抱える「もう家を買えないのではないか」という不安に対して、希望を持てるような視点を提供している点が素敵です。
中古マンションなどの紹介
2030年や2040年に中古マンションや中古戸建ての流通量が増えるエリアを具体的に予測しています。野澤さんは独自のデータ分析をもとに、どの駅周辺で住宅が手に入りやすくなるのかを詳しく解説しています。エリア別のランキング表も掲載されているので、将来の住まい選びの参考にしたい方には特に役立つ情報が満載です。首都圏を中心に具体的な駅名や地域が挙げられているため、自分が住みたい場所や投資を考えているエリアについて考えるきっかけにもなります。
現実的な解決策の提示
アフォーダブルな住宅供給の必要性や、過度な再開発による高コスト化を抑える方法など、現実的かつ前向きな解決策が示されています。野澤さんの言葉からは、現役世代を応援したいという熱意が伝わってきて、読んでいて励まされる気持ちになります。これまでの日本の都市政策を振り返りつつ、未来に向けて何をすべきかを考えるきっかけを与えてくれるのも、この本の魅力の一つです。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
庶民には買えない

大都市都心や駅近の物件を中心に、住宅価格が庶民には買えないほど、高騰しています。神奈川県の平均価格で6000万円ほど、埼玉県・千葉県・大阪府で4000万円ほどなのに対して、東京23区だけは、1億1483万円となっています。10年前にくらべて1.3倍~2倍近く跳ね上がりました。
世帯年収が1500万円を超えるパワーカップルも増えてきましたが、「東京」に住むとなると、そこまで家計に余裕がある暮らしをすることはできないようです。
異常ともいえる価格高騰の背景には、中国経済の不透明さや地政学的緊張に不安を覚えた海外富裕層が、安全で安定した日本の不動産を購入に参戦してきたことがあげられます。
中古マンション2040

中古マンションは2040年に流通量が増加する見込みです。都市計画マスタープランにも触れながら考察したいと思います。
都市計画区域における土地では、マスタープランと整合性がとれない計画を進めることができないようになっています。そのため、マスタープランに定められている地域別構想図を見れば、その地域は何を課題としているのかがわかるのです。
都心3区(千代田区・中央区・港区)で、主要4駅(東京駅・渋谷駅・新宿駅・池袋駅)の30分圏内にある駅のうち2040年ごろに流通する見込みの中古マンションの戸数が多い駅は、都営三田線の白金高輪駅・白金台駅、東京メトロの麻布十番駅、京急線の泉岳寺駅、JRの高輪ゲートウェイ駅などです。
麻布十番駅から品川駅までの高輪台周辺の高台を中心とした一帯にまとまって、マンション開発見込みがあることがわかります。江戸の大名屋敷だった高級住宅街に、近代マンションを増やして、リニア中央新幹線などの駅を配備し、交通網と住宅の大改造が行われる予定と読むことができます。