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目次
書籍情報
14歳からの非戦入門
伊勢崎賢治
2023年3月まで東京外国語大学教授、同大学院教授。
インド留学中、現地スラム街の居住権をめぐる住民運動にかかわる。
国際NGO職員として、内戦初期のシエラレオネを皮切りにアフリカ3か月で10年間、開発援助に従事。
2001年からシエラレオネで国連派遣団の武装解除部長を担い、内戦終結に貢献。
2003年からは日本政府特別代表としてアフガニスタンの武装解除を担当。
ジャズミュージシャン・トランペット奏者としても知られている。
ビジネス社
- 目次 14歳からの非戦入門
- はじめに ~新冷戦下の「安全保障化」と「国家」
- 第1章 ガザ:戦争か、ジェノサイドか
- 戦争にもルールがある!
- パレスチナ問題の本質は「シオニズム問題」である
- オスロ合意がもたらした束の間の平和
- 「オスロ疲れ (Oslo Fatigue)」 が蔓延
- ハマスは政体である
- ハマスとパレスチナ自治政府の関係
- 私の任務は「セカンドトラック」外交
- オスロ合意の崩壊
- 国家ぐるみの土地収奪の中で「自衛権の行使」は認められるのか?
- 「イスラエルの自衛の権利」と「憲法9条の自衛の権利」
- 悪魔が10月7日に降臨したという印象操作
- イスラエル、ハマス、双方の「比例原則」
- 人質交換の行方と停戦
- インサージェントとしてのハマス
- インサージェントとの戦い COIN (Counter-Insurgency)
- 「戦闘に勝っても戦争には負ける」
- イスラエルを包囲する国際世論
- 人質交換ではなくガザを統治するビジョンによる停戦交渉を
- ガザの行政機構の将来
- ハマスを包含せよ―アフガニスタンからの教訓
- 「テロリストとは交渉するな」は自滅的な言説である5 これを“戦争”と呼ぶべきか?
- 第2章 ウクライナ戦争
- 2つの大きな「安全保障化」
- 戦争に付き物の翼賛化
- ウクライナ戦争は“いきなり”始まったわけではない
- 市民動員と子ども兵士
- 戦争の終結とは領土の奪回ではなく、「民族融和」である
- 「力による現状変更を許さない」だけが国際正義ではない
- 係争地の住民に将来を決めさせる
- 集団的自衛権の「悪用」を繰り返さないために
- 新しい冷戦のはじまり
- 「安全保障化」が生む 「言説空間」と「現実」のギャップ
- 軍人の本音
- プーチンの上位目標とは何か
- ロシアが個別的自衛権を言い訳にしだす前に
- 核戦争の抑止
- ウクライナ人の戦う総意
- 「双方の顔が立つ」落としどころを探ることが停戦
- 高騰するナショナリズムに邪魔をさせない交渉: ノルウェーの教訓
- 国際停戦監視団への期待と現実
- 国際監視団の失敗
- ミンスク議定書の失敗の教訓を活かす―
- 停戦後のウクライナの治安分野改革
- 第3章 どうやって最速の停戦を実現させるか
- 即時停戦の世論を形成するためのロビー活動
- ウクライナは被侵略国でも紛争当事者である
- 武器供与国は紛争当事者か
- 武器供与国への攻撃が始まる前に
- 「不処罰の文化」と停戦
- 戦争犯罪の裁定の現実
- 移行期正義を実現するために
- 「先に手を出したのはおまえ」では済まない
- 「経済制裁」とマグニツキー法
- 集団懲罰はジェノサイドの動機になる
- 人権の普遍的管轄権
- 日本の「人権外交」
- 日本はジェノサイド条約に加盟すらしていない
- 「上官責任」を問えない、日本の「法の空白」
- 憲法論議を超えて法の整備を
- 親米国家日本だからこそ
- 第4章 アメリカの戦争を理解しなければならない
- 【ロシア】 対 【アメリカ・NATO】 の戦争であるウクライナ戦争
- 冷戦終焉後も存続したNATOと東方拡大-
- ソビエト・アフガニスタン戦争と
- 「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」
- 世直し社会運動としてのタリバン
- アメリカ建国史上最長の戦争の始まり
- 初のNATO憲章第5条による戦争
- 敵を完全に排除するツケは大きい
- 戦犯の、戦犯による、戦犯のための国家建設
- 「民主主義」を外国の手でつくるとは
- 国家の土台をつくるSSR: 治安分野改革
- 武装解除と力の空白
- アメリカ敗北への序章:アメリカの戦争計画とアフガン選挙
- タリバンとの停戦交渉
- 停戦のために「テロリスト」を制裁から外すこともある
- 停戦工作の迷走
- そして敗北
- アメリカによる世界の分断Ver・1
- そして、分断Ver.2
- 分断Ver.3?
- 第5章 東アジアのウクライナ化はあるのか
- 東アジアの有事
- 「無法国家」日本にとっての台湾有事
- 世界の陸軍が考える米朝開戦
- 占領統治に必要な陸戦兵カ
- 安全保障化の渦中におけるアメリカ陸軍の正気
- 第6章 朝鮮国連軍という日本の命運を支配するゾンビ
- 朝鮮半島の南・北は現在もなお「停戦中」である
- 国連の匂いのしない国連軍 国連が解消できない国連軍
- 停戦交渉の当事者性
- 指揮権をめぐる葛藤
- 朝鮮国連軍の維持か? 再活性化か? それとも解消?
- 朝鮮国連軍地位協定を結ぶ日本
- 朝鮮国連軍地位協定と日米地位協定
- アメリカが求める「自由出撃」の保証
- 第7章 「緩衝国家」日本が生き残る道
- 地位協定における世界標準の「互恵性」
- 旧敵国、2国間にも認められる「互恵性」
- アメリカの戦争の戦場になっている国でもありえない「自由出撃」
- なぜアメリカは「互恵性」を世界標準にしているのか
- 「全土基地方式」
- ロシアとの領土問題を解決したNATO加盟国ノルウェー
- 緩衝国家ノルウェーの葛藤
- 「ボーダーランド」の非武装化・外交的軍縮という
- 国防のオプション
- おわりに
書籍紹介
この本は、若者に向けて戦争やジェノサイドへの理解と非戦の理念を深めるためのガイドであると共に、現代の国際情勢における日本の立ち位置を考えるきっかけを提供します。
戦争の終わらせ方
伊勢崎氏は、国連紛争処理の経験から、戦争の本質とその終わらせ方について深い洞察を披露します。彼の視点は、武装解除や停戦の実務経験に裏打ちされており、単なる理論ではなく、実際の戦場での経験から得られた知識を基にしています。特に、ウクライナとガザの紛争を例に挙げて、どうすれば最速で停戦を実現できるかを論じています。
アメリカの戦争を理解しよう
本書は、安全保障問題が如何に「安全保障化」され、私たちの思考や政策決定に影響を与えるかを解説します。これは、国家が自己防衛のために軍拡を進める一方で、真の平和と安全を追求するための戦略が見失われる状況を指す言葉です。伊勢崎氏は、緩衝国家としての日本の役割を強調し、親米国家であるからこそアメリカの戦争について理解しなければならないと主張します。
東アジアの平和
東アジアのウクライナ化が起こり得るかという問いかけを通じて、地域の安定と平和構築の重要性についても考察しています。伊勢崎氏の分析は、単に現状を描くだけでなく、未来の可能性についても読者に考えさせるもので、非戦の思想をどう具現化するかという具体的な提案も含まれています。
若者向けで分かりやすく国際紛争の問題を知れる
この本は、特に14歳以上の若者向けに書かれているものの、その内容は幅広く、戦争や平和を考えるすべての人にとって有益です。伊勢崎賢治氏の豊富な経験と深い知識から得られる洞察は、国際紛争の解決策を探る上で一助になるでしょう。読者は、単なる情報を得るだけでなく、自身の価値観や世界観を見つめ直す機会を得ることができます。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
「民主主義」を外国の手でつくるとは
戦争復興には、莫大な資金が必要です。かなり長期的にアメリカと同じ民主主義を信奉してくれる先進国とのコミットメントが必要となります。
どんな国でも有権者は移り気であり、破壊されたものを戦後に再建する試みを「正義」として、有権者に示し続けなければならないでしょう。その「証」とは、民主主義が根付いているという証拠を表明することです。一番わかりやすいのは、民主選挙の実施でしょう。アメリカにおいて選挙は一種のお祭りです。
軍閥は完全武装した政治家を指します。大きな利権を確保するために、ライバル軍閥に負けないように最後の最後まで武力を手放そうとしません。その状態で選挙戦に突入したら、内戦になってしまいます。
そんな内情がありながら、準備をしていかなければならないのです。
アメリカの地震による新しい国軍の再建をドイツが、警察の再建をドイツが、イタリアが憲法を含む法の制定と整備を行い、この3つによってアフガニスタンに「法が支配する」土台を作ろうとしました。軍閥の資金源は麻薬なので、その対策をイギリスに委ねる体制を整えました。そして、誰も引き受けたくない武装解除という問題を、日本が引き受けてしまったのです。当時、田中真紀子外相の更迭問題で親米国なのか疑われたり、圧力をかけられ、日本は手を挙げざるを得ませんでした。
武装解除と力の空白
外務省のホームページを見ても、私が指揮したSSR(Security Sector Reform)の事業は、アフガニスタン新国家建設における成功だと謳われています。その結果、アメリカが希求したアフガニスタンで初めての民主選挙も行われました。しかし、平和が遠ざかり始めたことも事実です。
タリバンと地上戦を戦ったのは、私が武装解除した軍閥たちです。タリバンが逃げ込んだとされる村を村民と共に焼き払うことはやってのけました。人道に従っていたら、民主主義は実現できないことを知っていたからです。アメリカや先進国でさえ「戦争のルール」を気にする程度のことはします。
タリバン政権が崩壊した後、ビン・ラディンやオマール師など、アルカイダやタリバンの幹部たちはパキスタンに逃れて虎視眈々と反撃の機会を狙っていましたが、地上戦を戦った軍閥たちの軍事力は、タリバンの再来を防ぐ「抑止力」として機能していました。
しかし、軍閥が保有するすべての戦闘能力を無力化し、「力の空白」を出現させてしまいました。アフガニスタン南東部でのタリバンの攻撃が多発し始め、2005年にはタリバンの勢力拡大をアメリカ軍部は実感します。そして拡大し続けたタリバンの実効支配により、2021年8月15日のカブール陥落が起き、アメリカ・NATOの敗北に至りました。
「俺たちを武装解除したら、タリバンはすぐに復活するぞ」——当時、武装解除に抵抗する軍閥たちが口にしていた言葉が現実のものとなったのです。